救出と償い
朝からいろいろな事があった。わけの分からない所へ連れて来られ、山賊と遭遇し、そいつと仲間になって……。そして今、俺たちはラッセル達が襲ったという馬車の近くで夜襲をかける機会をうかがっていた。
「いいか、仲間の数は4人。3人はたいして強くないがリーダーのやつが格段に強い。きっと武器を持っている。気をつけろ。」
「ああ、分かった。相手の数が分かるのは嬉しいけどこっちの武器が木の棒ってのはつらいな。」
千博は苦笑いした。
「あそこに馬車の中に乗ってた人が捕まってる。見張りは2人だな。」
貴族のような、身なりの良い人が1人と護衛の者と思われる人がいる。2人を挟むように前後に見張りがついていた。
「なら先にあの人達を助けよう。ばれなければ残りの2人とはやり合わないですみそうだし。」
「分かった。それなら俺が1人の気を引くからチヒロはもう1人を頼む。」
「よし。それじゃいくぞ。」
千博とラッセルは二手に分かれ、それぞれ近くの茂みに隠れて様子をうかがう。ラッセルのいる方で物音がすると、見張りの2人は反応した。
「何だ?誰かいるのか?」
「おい、見てこいよ。お前の方が近いだろ?」
「ちっ、分かったよ。」
見張りの片方が遠ざかっていく。同時に千博はもう片方にゆっくり近づき、真後ろの茂みに潜む。瞬間、反対側の茂みでにぶい音が響く。それを合図に千博は茂みから飛び出し、手にした木の棒で男の頭を殴ろうとするが、緊張で手が緩む。
「しまった‼︎ 手が…!」
かなり軽くはなったが何とか男の頭部を後ろから殴る。
「ぐっ⁈」
男はその場に倒れた。千博は男の反撃に備え身構えるが、男は立ち上がらない。そっと近づき顔を覗くと気絶している様だった。その時千博は思い出した。
「あ、そうか!俺、力が…。」
そう、千博の力は今、人間とは思えない程に増幅していたのだ。だからうまく殴れなくても男は気絶したのだろう。もし本気で殴っていたらと考えると恐ろしい。
「加減に気をつけないとな…。」
そう思っているとラッセルが走ってやって来た。
「うまくいったみたいだな。よし、あの人達を助けに行こう。」
捕らわれた2人のもとへ行くと怯えた表情なので木の棒を置いてゆっくり近づく。
「安心してください。俺たちは味方です。今助けます。」
千博は安心させようとするが2人は落ち着かず、まだ怯えた様子だった。
「嘘をつけ‼︎ 貴様、奴等の仲間だろう!騙されんぞ!」
護衛の若い男がラッセルの方を向いて言う。しまった、そこは考えていなかった。千博は苦い顔をラッセルに向けた。
「信用できないのは当たり前です。実際、俺は奴等の仲間でした。けど、ここにいるチヒロに言われたんです。『こんなのツマラナイだろ?』って。俺がしたいのは山賊じゃないって分かったんです。だから今は自分のしたい事、正しいと思う事をします。」
そう言ってラッセルは護衛の男の縄をほどいた。護衛の男はまだ疑っていたが、黙って話を聞いていた、隣の黒い髭を生やした大臣の様な男はラッセルの話が真実だと分かった様だ。
「彼は嘘をついてはおらんよ。ここは彼を信じようじゃないか。それにここで捕まっていてもしょうがないであろう。」
「……分かりました。」
どうやら納得してもらえたようだ。「それじゃ、早く逃げましょう。」
「すまんが待ってくれないか。」
千博の提案を遮って髭の男が言う。
「実は馬車の中に大事な文書があるのだ。それを取り返さねば国に帰れない。」
「ぐっ……、何か武器さえあれば奴等など簡単に!」
護衛の男が言う 。2人は顔を見合わせ渋い顔で悩んでいる。
「俺が取り返してきます。これも償いです。責任は俺にあります。」
ラッセルの宣言に2人が驚く。が、2人が何か言う前にラッセルは馬車の方へ向かって行った。千博も後を追おうとする。
「ま、待て!なぜそこまでするんだ?君は山賊ではないのだろう?なら一般の市民じゃないのか?」
護衛の男が呼び止めるが、背中を向けたまま千博は答えた。
「今は他にすることが無いんです。それにあいつをほっとけません。あと残りの山賊には念のため気をつけて置いてくださいね。」
簡単に答えて茫然とする2人を後に千博はラッセルの後を追った。