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送迎とライラの秘密

また短めかも……すみません

ライラが家に来てから数日後、治安維持隊の人から手紙があった。内容は獣人の人達の解放を知らせるものかと思ったらそれだけではなく、村まで送る道の護衛を手伝って欲しいとのことだった。ライラと一緒にこっそりついていこうかと思っていたが、呼ばれてしまったのでどうしようかと考えた。しかし、治安維持隊の人は既にライラを引き取ったことを知っていて、ライラも一緒に村へ連れて行けると手紙に書いてあった。まあ、留置所の人が喋らなくても治安維持隊の人が調べたらすぐにばれることだったから問題はないだろう。ちゃんと奴隷として人に引き取られてはいるのだから。引き取り手が誰かは明らかにする必要はないし、国民が開示を求めても個人情報がどうとかで断れる。ただ、ライラの顔を見た人がいるかもしれないからライラに外を出歩かせるのは良くないかもしれないな。ここ数日は家でステラの手伝いをしていたみたいだからよかったが、ライラがここにいることはばれないようにしなければ。

「それで、明日ライラちゃん達を村に送りに行くわけかの。」

「はい、そうなんです。それと、村が城下町からは少し離れたところにあるみたいなのでしばらくは訓練に参加できないと思います。すいません、ボアさん、グッさん。」

訓練の後、食堂でみんなと夕食を食べながら千博はそう報告して頭を下げた。明日は馬車で半日以上移動しなければいけないらしい。朝早くに出て、夕方頃に村に着くそうだ。送り届けた後一晩村で休ませてもらうよう頼んであるらしい。だから予定としては1泊2日の旅行みたいなものだ。千博は少しわくわくしていた。

「おう、分かったよ。それにしても獣人の村か。そんなもんがこの辺にあったんだなぁ。」

「ゼウシアの周りには森も多い。私達人間にばれないよう静かに暮らしていたのだろうな。それで、ライラ君とはどうなんだ?」

話を変えてフェリスがライラについて尋ねてきた。もとが俺を暗殺しようとしてきてただけあって、まだフェリスも不安を感じているようだ。

「ああ、大丈夫だ。ライラとは仲良くやってるよ。いろいろ手伝ってくれてるから助かるよ。」

「チヒロ、まさかとは思うが……そ、その……変なことはしていないだろうな?」

答えるとフェリスは今度は顔を少し赤らめてそう尋ねてきた。

「は、はぁ?なんでいきなりそんな話になるんだよ?!」

何か誤解をされているのか、急にそんな話を振られて食事中だった千博はむせかけながら尋ねた。

「んー、フェリスの言いたい事分かるよ。だって、ライラちゃんはチヒロの奴隷なんでしょ?って事はー、ライラちゃんはチヒロの命令に逆らえないわけだしー?それを利用したチヒロがライラちゃんを好き放題に……」

「す、好き放題にしたのか、チヒロ?!」

「してねぇよ?!俺はそんなつもりでライラを引き取った訳じゃないっ!」

ミーツェがじっとりとした目で見てきて、フェリスが身を乗り出して問い攻めてきたので強く否定する。なんでこんな要らぬ疑いをかけられなければいけないんだ!

「ふふ、分かってるよ!チヒロはそんな酷い事しないもん。……ただ、逆はあるかもだけど……」

「逆?逆ってなんだよ?」

ミーツェはどうやら俺をからかっていたみたいで分かってくれているようだ。けど、その後の言葉の意味がわからない。なんの逆だ?

「うっ……確かに。ステラ君と似たような立場が増えたわけか……」

「あーあ、ライバル増えちゃったかなー。」

「は?何言ってるんだ?」

千博は2人でうなづきあっているフェリスとミーツェの会話が分からず頭に疑問符が浮かぶ。

「ったく、チヒロばっかずるいぜ。まぁ、その分良い事もしてっからなんとも言えないんだけどよ。」

「まったくじゃ。それに、本人が気付いとらんのが腹立つわい。」

「ミーツェ、さみしいがお父さんは応援してるぞ……」

ラッセルとグッさんとボア仙人の三人も何か話している。俺、何かしたか?千博は首をかしげる。近くでご飯を食べていた近衛兵達も溜息をついたりしている。

「ハハハ、相変わらずでござるなぁ、チヒロ殿。」

「イヴァンさん?!」

後ろから笑いながら歩いてきたのはゼウシア近衛隊の第五班の班長、イヴァン・エッジだった。

「さてチヒロ殿、報告に来たでござるよ。治安維持隊はライラ殿をチヒロ殿が引き取った事は重大機密事項として扱うそうでござる。だから安心して欲しいでござるよ。ライラ殿の目撃者も、夜だったのが幸いしていなかったそうでござる。ただ、ライラ殿が外出する際は耳と尻尾は隠すようお願いするでござる。」

「そうですか、分かりました。気をつけます。」

イヴァンさんは治安維持隊の人と千博の間をとりもってくれている。近衛隊で隠密班として活動しているイヴァンさんは分身の術?が使えるので各地で情報収集を行っているそうだ。また、隠密班の班員の人たちも国外だけでなく国内の治安を守るための情報収集活動に協力しているそうだ。

「それにしてもチヒロ殿には驚かされるでござるな。闘いぶりもそうでござったが、まさかライラ殿を自分の奴隷にしてしまうとは。」

「うむ。自由にするために奴隷にするなど、一見では矛盾しているからな。普通では思いつかん事だ。」

イヴァンさんとフェリスがうなづきあっている。確かに、俺もルチアのお陰で思いついたからな。うまくいってほんとによかった。

「サンドゴーレムじゃったか?なかなか面白い相手と闘えたのう。それにしても、あの土魔法の使い手、お主らを相手によく魔力が尽きなかったのう。」

ボアさんが感心したように顎に手を当てて言う。そういえば、忘れていたけどモーガンの魔力量は凄かった。初めて自分と同じくらいの魔力を持つ人を見た気がする。

「あぁ、そういえばモーガンの闘い方には秘密があったでござるよ。チヒロ殿のいう通り、あの水晶玉が原因でござった。奴は、あの時水晶玉を使って奴隷達から魔力を奪って溜めていたようでござる。今までずっと溜めてきたものでござろうな。だからあれだけの魔力があったようでござる。」

そうか、それで魔法を使う時に水晶玉が反応してたのか。謎が解けた。しかし、奴隷から魔力をとって溜めていたとは。

「あいつ、そんな事までしてたのか!……そういえば、あいつらはどうなったんですか?」

「ディートリヒはバルテレモン家から追放され奴隷になり、モーガンも同じく奴隷になったでござる。」

千博はあの二人の措置がどうなったのか気になったので聞いてみた。どうやら措置自体はライラと同じみたいだ。実行犯も計画犯も同じ罰、か。保釈とかされてないみたいでよかった。千博は胸をなでおろした。イヴァンはこれだけ伝え終えるとすぐにどこかへ行ってしまった。いつも忙しそうな人だ。そして千博達も夕食を終えるといつも通り解散し、帰宅した。






「それではマナカさん、よろしくお願いします!」

若い治安維持隊の隊員が敬礼しながら言った。早朝からの依頼だったので欠伸を堪えながら千博は頼まれた通り獣人の人達が乗っている護送用の荷馬車の一つに乗った。馬車は以外と広く、10人乗りで5人ずつが向かい合って座るようになっていた。馬車は全部で8台ほどになっていた。護衛を手伝うよう言われたので馬車の周りにいればいいのかと思っていたが、魔力を利用して馬の脚力を上げるよう頼まれた。人数が多いから馬の数が足りないらしい。馬車一台に二頭の馬しかいない。本来ならもっと数がいるのだが、アイジスという国に遠征に行って魔物の討伐を手伝っているため足りていないようだ。確か、将軍とか兵長とかいう人達が行ってるんだっけ。ゴラン将軍とザック兵長だったな。

「なんだかなー。手伝いって補給の役割だったのか……」

千博は独り言をつぶやいた。実力を買われて頼まれたとかだとカッコ良かったんだけどな……。ま、役に立てるなら良いか。出発の前に一度馬の強化を頼まれて一通りした。ただ、これはアレギスに行った時一度だけ使ったものなので休み休み補給していくのは初めてだ。一回の補給でどれだけ保つのかわからないが、今回は自分も休憩できるし無理はしないよう言われたので魔力を使い切ることはないだろう。

「あの、チヒロさん……でしょうか?」

強化を終えた千博が馬車に乗ろうと馬車までもどると、馬車の前に女性が立っていた。頭を見るとステラとはまた違った犬の耳がついていて尻尾もある。獣人と人間のハーフだ。顔はとても整っていて綺麗な人だ。

「はい、そうですけど。どうかしましたか?」

優しそうな雰囲気の女性は千博が答えるのを聞くやいなや、急に跪いて千博の手を握ってきた。

「ちょっ、どうしたんですか?!」

「ああ……チヒロさん、本当に……本当にありがとうございました……!」

そう言って女性はついに泣き出してしまった。な、なんだこれ?なんかまたライラを迎えに行った時みたいになってるぞ?!この人は多分俺に助けてもらったと思ってるんだろう。

「気にしないで下さい!みなさん、本当は奴隷ではなかったんですからこうなって当然ですよ。それに、俺は何もしてないですし。」

「何を仰ってるんですか?!私達はみんな貴方に助けられました!それに、私はそれだけではありません……」

それだけではない?どういうことだろう。千博は分からずに首を傾げた。

「はっ!すみません、私、取り乱してしまって……!私は、ライラとルチアの母でサクヤと申します。ああ、もう、なんとお礼をしたら良いか……」

女性は千博の手を握っていた事に気付き急いで離して涙をぬぐいながら名乗った。それを聞いて千博は少し納得がいった。

「マナカさん!申し訳ありませんがそろそろ出発を……」

と、ちょうど名前を聞いたところで治安維持隊の人に声をかけられた。気づけば周りはもう出発の準備が整っている。外にいたのは千博たちだけだった。

「あ、すみません!あの、サクヤさん、先に馬車に乗りましょう。話は中で聞きますから。」

千博はサクヤさんにそう言って馬車へと乗り込んだ。

「この度は本当にありがとうございました。今回の事は感謝してもしきれません!」

そして、動き出した馬車の中で改めてサクヤさんは千博に礼を言ってきた。馬車の中にはライラとルチア、ステラもいる。片側の5人の列にルチア、ライラと座っており、その隣にはステラが座っていた。千博はその隣に座ってあとにサクヤさんが続いた。

「うん。ありがとう、チヒロ。またみんなと村に行けて、嬉しい……本当に。」

「私も!ありがとう、チヒロさん!」

サクヤさんに続いてライラとルチアもお礼を言う。

「そんなに改まらなくても……」

千博は照れながら頭をかいた。馬の強化をしている間に話ができていたのだろうか、ステラはサクヤさんの素性を知っている様でサクヤさんについて聞いてきたりはしなかった。

「あの、私達も助かりました!本当にありがとうございます!」

と、サクヤさんやライラたちだけでなく同じ馬車に乗っていた獣人の女の人達も頭を下げてきた。

「いや、気にしないで下さい。俺は何もしてませんよ。お礼なら、治安維持隊の方たちに言ってあげてください。」

実際、治安維持隊の人達が疑っていてイヴァンさんが協力してくれなければ助けられなかっただろうし。獣人の人達を保護してくれたのも、こうして村まで送っているのも治安維持隊の人だからな。

「ああ……なんて優しい……」

「このご恩は一生忘れません!」

獣人達は皆口々に千博への感謝の言葉を述べていく。なんだか聞いているとみんながよほど怖い思いをしていたのがよく分かった。……まあ、少しくらいなら役に立てたのかな。ちょっとだけ考えが変わった千博は照れ臭く思いながらも素直に感謝の言葉を受け止める事にした。

「そ、そうですか。まあ、皆さんでこうして帰れるので良かったです。」

だけど、最初に会った時に比べてかなり態度が変わったよな。最初はとても警戒されてたみたいだったけど今はそんな感じはしない。ルチアが説得してくれたおかげだろうか。

「あ、あの……ところで、一つお尋ねしても良いですか?」

「はい?」

いい雰囲気になったことに喜んでいると正面にいた鳥の女の獣人が話しかけてきた。心なしか頬が赤らんでいる気がする。

「チヒロさんは、その、異種族間の結婚、とか……どう思われますか……?」

そう言い終わると向かいに座る5人の獣人の女性たちがきゃーきゃーしだした。なんか、女子高生のノリみたいな感じだ。もっとも、見た目からだけだといまいち年齢がわかりにくいけど……多分若そうだ。

「「……!!」」

そして、この話題に千博の隣に座るステラとその隣のライラの耳がぴくんと同時に反応した。なんでこんな話に急になるのか疑問だけど……普通に雑談の話題を振ってくれたのかな。けど、異種族間の結婚ってどういうことだ?亜人と人間の結婚ってことでいいのかな。でも、どう思うってどういうことだろう。

「どうって……何か問題があるんですか?」

そりゃ、人間と亜人は見た目が違うからな。そこで恋愛観というか、そういうのが変わってくるんだろうけど……別にこれって、元の世界で言う国際結婚みたいなものと何か違うのか?異世界から来た俺からしたら確かに獣の見た目の人と結婚ってなると国際結婚のそれとは違うけど、この世界では亜人って普通にいる存在なわけだしな。何か大きな社会問題的な質問をされてるのか、単に意識の話をしているのか、認識が正しいのか分からない。しかし、そう質問すると彼女達に不思議そうな顔をされた。

「チヒロさん、私やライラさん、ルチアさん、サクヤさんの様なハーフの獣人は少ない事はご存知ですか?」

「ああ、知ってるよ。身分の違いで異種族間の恋愛が少ないからだよな。けど別に、異種族間で結婚するのが禁止ってわけではないんだろ?」

困っていると隣から小声でステラが助けに入ってくれたので、千博は確認する。ステラの場合はお父さんにあたる人が獣人で、お母さんを無理矢理という話だったけど……ハーフの獣人がみんながみんなそういうわけではないだろう。

「はい、禁止はされていません。でも、人間の方が獣人と結婚することはほとんどありません。ハーフの獣人が生まれるのも、人間の方とその奴隷の間であったりしますし……ですから、その、ち、チヒロさんどうなのでしょうか……と。」

ステラはなぜか恥ずかしそうに少しうつむきながらそう教えてくれた。なるほど、じゃあ普通に俺の価値観を聞かれているだけなんだな。

「ああ、それなら別に良いと思いますよ。お互い好きなら結婚すればいいと思います。種族なんて関係ないですよ。」

まあ、自分のことを言うと確かに獣人との恋愛はちょっと抵抗があるけど……動物とは全然違う見た目だし、体つきはほとんど人間だし、大丈夫な気がする。お互いの愛さえあればってやつだ。

「ほ、本当ですか?!」

そう答えるとまた獣人の女性達が盛り上がった。女子高生が恋バナしてるのを遠くから見てるとこんな感じだよな。獣人JK達はお互いに楽しそうに話している。……一体なんだったんだ?会話の種だと思ってたけど、取り残されてしまったんだが。

「ほっ……」

「……よし」

唖然として様子を見ている横でステラが息を吐き、ライラがなぜか小さくガッツポーズを決めている。隣のサクヤさんはにこにこ微笑んでいる。なんだろう。単に興味本意の質問だったのかな。

「……そういえば、サクヤさんとライラ達は耳が違いますよね?旦那さんが虎の獣人なんですか?」

みんなの様子が気になったが、千博はふと疑問に思ったことを尋ねた。

「ええ、そうです。私の夫は虎の獣人。ですからライラとルチアはハーフではなくクウォーターですよ。」

クウォーターか。ということは、獣人の血のほうが濃いからライラは強いのかな?ハーフのステラは身体能力が特別高いわけではないみたいだし。ステラは人の血のほうが濃いのかも。あれ、でも待てよ?

「あの、気になったんですけど、みなさんってやっぱり人間よりも身体能力は高いんですか?」

獣人が人間よりも力が強いならそんなに簡単に捕まらなかったんじゃないか?ここにいる人達……ていうか、ほとんどの人がハーフじゃない普通の獣人っぽいし。それならライラより強かったりしないのか?

「えっと……そうですね。多少は違うと思いますけど、人によりますよ。例えば、彼女は鳥の獣人ですから力は人間の方とあまり変わりませんが飛ぶことができます。あとは、彼女はクマの獣人なので力が強いですね。ただ、私達は女性ですので元の力はあまり強くないですよ。」

再びサクヤさんが向かいに座る女性達を紹介しながら答えてくれた。サクヤさんの話からすると、何の獣人かによってその人の特性があるみたいなことなのかな。で、ハーフになると獣人の力は弱くなる。性別によっても男性の方が力は強いみたいだな。

「そうですか。なら、そちらの方はライラより力が強かったりするんですか?」

女性にこういうのを聞くのはどうかと思うが気になって尋ねる。すると、クマの獣人の女性は首を振って否定した。

「まさか!幾ら私達でもライラちゃんには敵いませんよ。」

「え、そうなんですか?」

意外だった。なら、血の濃さは力には関係ないのかな。

「ああ、きっとチヒロさんの考えていることは正しいです。ただ、ライラは特別で……おじいちゃんが言うには、100年に一度の天才じゃないかと……」

顔に出ていたのか、言わずしてサクヤさんから答えが返ってきた。ただ、サクヤさんの顔はなぜか浮かない顔だ。少し気になるけど、ということはライラは獣人の中でも特別強い存在なのか。……だから俺を殺す暗殺者に選ばれたわけか。

「私、天才……。褒めて?」

「ああ、すごいなライラ……って、自分で言うなよ!」

素直に感心してしまった千博はつっこむ。まあでも、100年に一度の天才なんて確かに凄いな。俺もなってみたいものだ。

「でも、チヒロはもっと凄い。私に、勝った……」

「いや、あれは魔力のおかげだぞ?」

「それでも、凄い……」

ライラが言うと周りもうなづいている。褒められるのは嬉しいけど、まだ危なっかしかったからな。魔拳はもっと練習しないといけない。

「ありがと……ふわぁ」

っと、しまった。欠伸がでた。どうも朝が早かったからな。

「あら、チヒロさん、お疲れですか?」

「あ、すみません。いつもより朝が早かったもので……」

サクヤさんに横から聞かれる。ちゃんと寝てはいるんだけどなぁ。疲れてるわけじゃないけど、いつも起きる時間より早いからどうしてもちょっと眠い。

「申し訳ありません、私達の為に……あ、よければ少し寝られますか?この後もチヒロさんのお力に頼らせていただくわけですし……」

うーん、そうだな。確かに、この後も馬車の魔力補給を何回かしなければいけないわけだしな。疲れてるわけではないけど、眠いと集中力が弱まるし、魔法に影響しても嫌だからちょっと寝とくか。

「そうですね、じゃあ、少し寝させてもらいます。」

そう言ってチヒロは腕を組んで俯いた。高校に行っていた時、通学のバスや電車の中で寝る時は大体このスタイルで寝ていたから仮眠の時の体勢は自然とこうなってしまう。

「はい、では、どうぞ。」

チヒロがその体勢で目を閉じようとすると、サクヤさんが自分の太ももをぽんぽんと叩いて見せた。

「……?」

ちょっと意味がわからないので気にせず目を閉じようとすると、サクヤさんがガーンという効果音が聞こえてきそうな顔になってしょんぼりした。

「あの、なにか?」

「ち、チヒロさん?あの、その体勢では疲れてしまわれますよ?ですから、ほら!」

大げさなリアクションに無視することもできず尋ねてみると、自分の太ももを指してそう言うサクヤさん。いやいや、ほらの意味が分からないから。

「慣れてますから大丈夫です。」

サクヤさんが何を提案しているのか本当に分からないわけではない。確かに誰も見ていなかったらお言葉に甘えるのもやぶさかではないというか、むしろ大歓迎なのだが場所をわきまえられぬ千博ではないのだ。

「うぅ……残念です。私、息子がいたら膝枕して、頭を撫でてあげてみたいと思っていたんです……」

「いや、俺はサクヤさんの息子じゃないですからね?!お気持ちはありがたいですが、普通に寝ます!」

ていうか、頭まで撫でようとしていたのか?!ショックを受けているサクヤさんにつっこむ千博。なんだかライラといい、サクヤさんといい、この親子は少し変わっていないか?最年少のルチアが一番しっかりしているような気がするんだが。そう思いながら千博は目を閉じて眠り始めた。が、しばらくして目を覚ましてしまった。首が痛い。寝方がやはりあまり良くなかったみたいだ。

「あの、チヒロさん。体勢がつらそうです!あの、よければ私の肩を……どうぞ!」

首を手で揉んでいると今度はステラが提案してくる。千博は驚いて聞き直した。

「……はい?い、いいのかよ、それ?」

「も、もちろんです!私はチヒロさんのメイドなんですから!」

いや、なんかあんまり関係ない気がするけど……。けど、隣の人の肩に頭乗せて寝てしまうことはたまにあったよな。その度に気恥ずかしい思いをするけど、今回は知ってる人だし、許可がもらえたならセーフか?いや、恥ずかしさはあるけど……。どうしよう。

「う、じゃあ、……頼むよ。」

千博は決心して頭をステラの方に預けた。ステラの髪の優しい香りを感じる。

(ま、まあ中途半端に寝て眠かったし、首も痛いからな!べ、別にやましい気持ちはないんだ!って、誰に弁明してるんだ、俺……)

「「むぅ」」

サクヤさんと何故かライラもむくれているが気にしない。少しというより、かなり恥ずかしい気がするが、でもステラの隣は不思議と落ち着く。人柄だろうか。ステラはおおらかな性格だからな。

「……♪」

そして、なぜか上機嫌なステラを横目に、楽な体勢になり心も和んだ千博はすぐに心地よい眠りについた。







あの後、1時間ほどしたところで起こされた千博は馬車の馬の強化をかけ直す作業をした。その後も1時間から2時間ほどの間隔で強化を頼まれ、獣人の人達やサクヤさん、ライラ、ルチア、ステラ達と話をしたりしているうちに馬車は目的の村へと到着した。何事もなく無事に着いたが、魔力の消費となぜか強化が終わるたびに向かいの5人が他の馬車の人と代わって絶え間なく質問され、千博はへとへとだった。

「お、おい!大変だ!みんなが……みんなが戻ってきたぞっ!!」

村に着くと予定より少し遅い時間だった。ちょうど夕日が沈み始めた頃だ。馬車の窓から顔を出して手を振る村の女、子ども達を見て1人の若い獣人が驚きの声を上げながら村の男達、老人達を呼びに行く。するとすぐに村に残った全員が馬車の周りに集まった。馬車に乗っていた者たちも飛び出してそれぞれ友人と、家族の元に走り寄っていく。お互いに無事を確かめ、再開を喜び合い涙する者も多い。

「あ!お父さんっ!」

「ルチア!」

ルチアが1人の獣人に駆け寄って抱きつく。グッさんより少し背の高い、迫力のある風貌の虎の獣人だ。片目に傷を負っている。

「あなた!」

「……お父さん!」

ルチアに続いてサクヤさんとライラも抱きついた。

「おお……!サクヤ!ライラ!」

4人はお互いに強く抱きしめ合っている。強面のライラのお父さんだったが、その目には涙が浮かんでいる。とても綺麗な光景だ。家族愛を感じるな。みんなが喜びあっている様子を残された千博とステラは治安維持隊の人たちと眺めていた。しかし、しばらくすると1人のおじさんが治安維持隊の隊員の1人の方へと歩いていった。狸の獣人だ。おじさんは深々と頭を下げ、何かを話している。そしてこちらを見ると、治安維持隊の隊員に再びお辞儀してこちらに来た。

「チヒロ様、村の者から話は伺いました。この度は私たちの仲間をお救いして頂き、本当に有難うございます。私はこの村の村長のペスと申します。今夜は出来る限りのお礼を尽くさせていただきたく思いますので、どうぞごゆっくりお休み下さい。」

ペスと名乗ったおじさんは深々と頭を下げる。礼儀正しい人だな。

「ありがとうございます。じゃあ、お言葉に甘えて休ませて頂きますね。」

「すぐに食事の準備をいたしますからね。それまではみなさんと村の集会所の方でお休み下さい。」

ペスさんはそう言うと集会所に案内してくれた。寄り合みたいなことに使っているのだろうか、床には敷物が敷かれ、座布団がたくさん置いてある。治安維持隊の人達と集会所に入り中で座って待っていると外が賑やかになり始めた。どうやら外で食事の支度をしているらしい。村のみんなでお祝いと歓迎の宴をするみたいだ。帰ってきたばかりの女の人達がせっせと食事の準備にとりかかっている。子供達も手伝いをしているようだ。見ているだけで少し申し訳なかったが、本当に料理はすぐに運ばれてきて集会所内も酒宴の席が整えられた。そして村全体で酒宴が始まった。外では村人達が話したり、歌ったり、それぞれ楽しんでいるようだった。チヒロ達集会所内の者は村長さん達にもてなされた。

「どうですか、お口に合いましたかな?」

村長のペスさんが千博とステラのところに話しにやってきた。

「えぇ、とても美味しいです。なぁ、ステラ。」

「はい!どの料理も新鮮な食品が使われていて、味付けもとても上手で……勉強になります!」

ステラも村の人たちの料理が気に入ったようだ。そういえば、いつもステラにはご飯を作ってもらっている。たまにはこうして料理を休憩できる日があるとステラも休めるかもしれないな。まあ、便利熱心なステラはただ食べるだけじゃなくて技術を盗もうともしているようだから休めているのかわからないが。

「どれも村で今朝採れたばかりのものですからね。それを聞いたらみな喜びますよ。」

そう言ってペスさんは笑う。

「おーい、村長、ちょっといいか?」

千博たちがペスさんと話していると、入り口から1人の男が入ってきた。ライラのお父さんだ。

「どうしたんだ、ガルト。」

ライラのお父さんはこちらへ歩いてくる。名前はガルトというのか。一応初対面なので千博は軽く会釈した。するとガルトさんも会釈を返す。

「すまんが、チヒロさんを借りていいか?村のみんなも話したがってるからな。」

「おっと、すまん。そうだな。申し訳ありませんがチヒロさん、ガルトと行ってやってくれませんか。」

「分かりました。ステラは……」

どうする?と聞こうとしたが、ちょうど料理を運びに来た女の人と料理トークを始めて盛り上がっているようだったので1人で行くことにした。帰ったらステラの料理スキルが上がっていそうで嬉しいな。チヒロはペスさんにも会釈して外へと出た。外はもう夜で暗かったが、松明やら焚き火やらで明るかった。千博はガルトさんと一緒に近くの丸太でできたベンチに腰掛ける。

「今回は娘達と妻を助けてくれてありがとう。恩にきるぞ。」

「い、いえ、大した事はしてませんよ。」

ガルトさんは深々と頭を下げた。村に来てからいろんな人にお礼ばかり言われて嬉しいけどこそばゆい。

「本当にあんたには感謝してもしきれん。……だが、無礼なのは承知の上で一つあんたにお願いがあるんだ!」

頭を上げたガルトさんは千博の肩を掴んで迫ってきた。迫力がすごい。

「え、えっと、何でしょうか?」

「ライラの事だ。」

困惑していた千博だったが、話の内容を聞いて表情を変える。きっと、ライラが俺の奴隷になったことを知ったんだろう。それなら親としてのお願いは想像がつく。しかし、こちらも最初からそのつもりだ。

「ライラの事、よろしく頼む!」

「大丈夫ですよ。ライラは村に帰るよう……って、え?」

よろしく頼む?聞き間違いだよな。だって、おかしいだろ。ようやく家族がそろったんだぞ?

「な、なんでですか?!別に俺は本気でライラを奴隷にしようと思ったわけじゃないんですよ!だから、これからは村のみんなと一緒にいてもらって大丈夫です。」

「……チヒロさんは、ライラは特別だって聞いたか?」

本気でライラを奴隷にしたと思われているのかと思い、千博はガルトに説明しようとしたが返ってきた返事は関係のないことだった。

「特別って……他の獣人より強いことですか?100年に一度の天才とかいう……」

「ああ、それだ。」

話がまだよくわからない。この話がなぜライラを引き取らないことと関係があるんだ?

「実はな、ライラには人狼の血が混ざっているんだ。」

「人狼?」

人狼って、オオカミ男の事か?それがライラの強さの理由なのか。あれ、待てよ?

「じゃあ、サクヤさんは狼の獣人のハーフじゃなくて、人狼って事ですか?!」

驚いたな。オオカミ男じゃなくてオオカミ女か。ひょっとして、月を見たら変身するのかな。千博はサクヤさんを探してみた。サクヤさんは村の女の人と話をしている。……見た感じ、変身しているわけじゃなさそうだけどな。

「あ、いや、ちょっと違うんだ。サクヤは人狼と人のハーフでな、サクヤには人狼の力は現れなかったんだが……娘のライラには現れたみたいでな。それでライラは他の奴らよりも強いんだ。」

「ああ、そうだったんですか。でも、それが何か問題なんですか?」

ライラの強い理由は明らかになった。でも、それは別に最初のお願いの話には関係ない事じゃないのか?そう思った千博はガルトに尋ねると、ガルトはきょとんとした顔になった。

「え、いや、だから人狼の血だぞ……?」

「……?」

人狼の血というところをガルトは強調する。人狼の血、か。それが何かあるのか?だって人狼って別に獣人と変わらないんじゃ……。あ、いや、違うぞ!?俺の予想が正しければ確かにこれは問題なのかもしれない。

「魔物の血……って事ですか。」

「……ああ。そうだ。」

やっぱりそうか。勝手に人狼と獣人をひとくくりにしていたけど、正確には違うからな。グッさんの話に出た牛頭人ミノタウロスもそうだけど、これも獣人とは違う。獣人は人間の体格をした獣って感じだ。しかし人狼はもとは人の姿だし、牛頭人の方は名前通り頭だけ牛で体は人間だ。全然違うぞ。

「サクヤは人狼の血をひいていたからな。それだけでいろんな場所で忌み嫌われていた。で、見るに耐えられなかった俺はサクヤを助けて、この村まで来た。この村の奴らは良い連中ばかりだからな。サクヤの事も受け入れてくれて、こうやって生活してるわけだ。」

ガルトさんは昔を思い出すような目でサクヤの方を見ながら語った。そうか。予想はついたけど、やっぱり魔物の血っていうのは良くは思われないんだな。

「幸い、サクヤは人狼の力はなかったから他の獣人にすぐ馴染んだ。でも、ライラは違った。ライラには人狼の力が現れた。」

ガルトは拳を握りしめながら続ける。しかし、千博は疑問をもっていた。

「でも、ライラは変身しませんよね?」

「ああ。ライラも普通にしていれば他の獣人と同じようなもんだ。だがな、ライラには確かに人狼の血が流れてる。そして、その血が暴走した時、俺たちにはもうどうする事もできないんだ。」

「暴走?」

千博はガルトの言葉を繰り返した。暴走とはどういう事なのか。

「ああ。何年かに一度の周期でライラの中の人狼の血が暴走するんだ。ライラは今年で16になるがこれまでにも2度、暴走した事があった。初めは5歳、次は13歳。俺のこの目の傷は、13歳の時の暴走を抑えた時に負ったものだ。」

ガルトは自分の右目に手をあてながら話す。確かに、爪のような鋭いもので裂かれた様な傷だ。察するに、ガルトさんも相当な強さの持ち主だと思うが、それでもこの傷を負ったのか。暴走の激しさが伝わってくる。

「……ライラ自身はこの事は知らないんだ。暴走した後は記憶が混乱するらしい。だから本人には、決して悪気があるわけじゃないんだ。」

「そうですか。それで、ライラを俺に引き取ってほしいという理由はなんですか?まさかと思いますけど、村から厄介払い……なんてわけじゃないですよね。」

千博は一応尋ねてみる。流石にこの村の人たちの正確からして、そんな事はないと思うが。

「違う!そうじゃない!ただ……次の暴走はもう俺では抑えられんかもしれないんだ。そうなったら、ライラが村のみんなを傷つけちまうかもしれない。そうなると、何も知らないライラが可哀想だ……」

ガルトさんは辛そうに目を伏せた。そうか。娘の事を思っての判断だったんだな。

「でも、ガルトさんで無理なのに、俺にライラを抑えられる保証は……」

「いや、あんたは本気のライラと闘って勝ってる。少なくとも俺じゃもう今のライラには敵わないんだ。だから、迷惑をかけるのは承知で頼む!ライラと一緒にいてやってくれ!頼む、この通りだ!」

ガルトさんは必死に頭を下げてくる。……どうする。ガルトさんの娘の幸せを思っている気持ちは痛いほど伝わってくるが、俺は期待に応えられるのか?

「……本当に、保証はできませんからね。それでもいいですか?」

「ああ。あんたなら……いや、あんたしか頼れる人はいない。サクヤとも相談した結果だ。頼む!」

ここまで頼まれたら仕方がない。幸い、うちは無駄に広いからな。でも、ルチアはどうなんだ?姉と離れる事になってしまうけど、納得できるだろうか。

「ルチアちゃんには話したんですか?」

「もちろんだ。それに、ライラもあんたのとこに行きたがってるからな。ライラの気持ちを知ったら、ルチアも納得してくれたよ。」

「え?!そうなんですか?!」

千博は驚いた。村に帰ってきて村に残りたい気持ちが強くなると思ったのに、まだうちに来る事を考えてたのか。疑問は残るが、家族全員の許可があって、さらに本人も何故か来たがっているわけか。

「……それなら、分かりました。ライラは預かります。」

「本当か、チヒロさん?!感謝するぞ!」

ガルトは千博の手を握って礼を言う。千博はガルトさんのお願いを聞く事にした。食費は増えるけどライラが来てくれればステラが1人でいる時間が減るし家事も手伝ってくれるだろう。贅沢な生活をしなければ、なんとかなりそうだ。

「食い物は毎月送らせてもらうし、俺たちができることなら何でもする!だから、ライラのこと、よろしく頼む!」

「はい。頼まれました!」

千博は胸を叩いてみせた。ガルトさんは仕送りもしてくれるみたいだ。それならいよいよ心配は無くなったな。ガルトさんは安心した様子で息を吐き、近くにあった酒瓶を2本とってきて片方を飲んだ。

「はぁ〜、よかった。断られたらどうしようかと思ったぜ。こんなこと頼める人はなかなかいないからな!ほら、チヒロさんも是非飲んでくれ!」

ガルトさんは口元を拭いながらもう片方の酒瓶を千博に差し出す。いや、俺は未成年なんだが。

「すいません、俺まだ17歳なんで……」

「ああ、まだあまり飲んだことがないのか?なら、あまり強くないのを持ってこよう。少し待っててくれ。」

「あ、いや……」

あまりっていうかほぼ全く飲んだことがないんだけど……。お酒に関しての法律ってこの世界にはないのか?それともフランクなだけなんだろうか。どちらにせよ、お酒は自信がないんだけどな……。ガルトさんはすぐに酒瓶をもって帰ってきた。

「さぁ、飲んでくれ!これも村の自家製だ。味には自信があるぞ!」

「じゃあ、少しだけ。」

楽しそうな顔でそう言われるのでさすがに断れず、千博は酒に口をつけた。少し果実の風味があって確かに飲みやすい。

「美味しいですね。」

「そうだろう!まだまだあるから好きなだけ飲んでくれ!じゃ、俺は少し向こうに行ってるからな。何かあったら呼んでくれ!」

そう言うとガルトさんははなれていった。1人残された千博は少しずつお酒を飲んだ。飲みすぎるとろくな目に合わないだろうからな。

「あんた、チヒロさんか?」

「思ったより若いな!」

「本当に助かったぜ!ありがとな!」

1人でいると次々に村の人に声をかけられた。気さくな人が多くて話していると楽しかった。やっぱり、獣人の人達は人間と何も変わらない。見た目が違うだけだ。千博は村の人達を見ていてやはり身分差別に疑問を持った。この夜は村の人たちとたくさん話し、ゆっくりとすることができた千博は清々しい気持ちで1日を終えた。






翌朝目を覚まし朝食を食べると、治安維持隊の人達とすぐに出発の支度にかかった。名残惜しいが、あまり訓練を休むわけにもいかないのだ。

「チヒロさーん!」

「わ?!な、なに?」

千博が最後の馬の強化を終えたところで村の子供達が馬車の周りに集まってきた。そしてそのうちの1人がチヒロのもとに来る。ルチアだ。

「チヒロさん。これ、お礼!助けてくれてありがとう!」

そう言ってルチアが渡してきたのは手作りのクッキーだった。昨日の夜に焼いたのだろうか。他の子供達もそれぞれ治安維持隊の人たちのところに行って何か渡している。花束だったり、綺麗な石だったり、絵だったり。みんなえらいな。

「わざわざありがとう。すごく嬉しいよ、大事に食べるね。」

「うん!あと……お姉ちゃんと仲良くしてあげてね!」

ルチアは元気な笑顔で千博に言った。しっかりした子だな、と感心しながら千博も笑った。

「ああ!きっとライラと遊びに来るし、ルチアもいつでも遊びに来てくれ。」

「うん!約束!」

そう言うとルチアは戻っていく。それと入れ替わるように今度は村の人達が何人か来た。

「みなさん、本当にありがとうございました。大したものではありませんが、これは私たちの村の特産物です。どうぞ、お持ち帰りください。」

そう言って荷車2つにどっさりとのせられた特産物を差し出した。すごい量だな。千博は治安維持隊の人たちのほうを見た。治安維持隊の人たちも困ったように苦笑いしている。千博もさすがにこれは受け取りすぎじゃないかと思ったが、村の人たちはどうしてもと言って引き下がらないので、受け取ることになった。幸い、村の人たちを乗せてきた馬車はたくさんある。それに特産物を積み込んでいよいよ出発となった。

「チヒロさん、それではライラのことよろしく頼むぜ!」

「ライラ、しっかりね!頑張るのよ!」

「お姉ちゃん、チヒロさんと仲良くね!」

ライラの家族が揃ってライラを見送る。

「……うん。大丈夫。お父さん、お母さん、ルチア、元気でね。」

ライラは最後に一人ひとりとハグして別れ、千博とステラとともに馬車に乗る。

「なあ、なんでライラはうちに来ようと思ったんだ?」

馬車が動きだし、窓から村の人たちに手を振りながら千博は気になったことを尋ねた。ライラの家族から頼まれたから本当に良かったのか、とは聞かないが、ライラ自身がうちに来ようと思っていたのはなんとなく不思議だったからだ。ライラの家族はすごく仲の良い家族のようだし。家族と離れて暮らしたいなんで理由ではないだろう。

「それは……ステラさんのご飯、美味しい。」

「飯につられたのかよ?!」

衝撃の理由に千博は思わず声を上げた。そりゃ、ステラの作るご飯は美味いけど……村のご飯だって美味かったぞ?褒められたステラ本人も苦笑いしている。

「……それに、私は、チヒロの側にいたい。そう思った、から。」

ライラはそう付け加えると少し俯いた。その顔は赤くなっている。突然の言葉に千博もどきっとした。

「私は、チヒロの奴隷。だから、チヒロの側にいる。」

「お、おう。まあ、そんなに気にしなくても良いんだけどな……」

そうか、まだ律儀に奴隷のことを気にしていたから俺の側にいようとしてたのか。奴隷だから仕方なくってことね。誤解しそうだった千博は頭を振ってライラの方に向き直った。

「じゃ、改めて。これからは3人で仲良くやってこう!よろしくな、ライラ。」

「こちらこそ……頑張る。あと、ステラさんに、負けない。」

「わ、私だって負けません!」

早速ライラがステラに何か宣戦布告をしている。家事のことかな。まあ、お互いに高め合うことはいいことだよな。うちも住みやすくなる。……これからは3人で暮らすことになる。きっと、賑やかで楽しい生活になることだろう。千博は馬車に揺られながら今後のことを考えて心の中で笑った。こうしてライラの村帰りは終わり、また半日以上の長い道のりを3人で談笑しながら帰宅するのであった。

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