山賊と一日目の終わり
「くそっ!避けきれない…!」
咄嗟に両手を挙げると、振り下ろされた棍棒が千博の右手に直撃する。本来なら骨折は免れないだろう当たり方だったが千博の腕に激痛は走らない。
「……?」
「う、嘘だろ⁈ 」
何故かは分からないが男の攻撃は全く千博に通用していなかった。肩を叩かれたぐらいの衝撃。痛みとは程遠いものだった。男はあり得ないといった風で口を開けて突っ立っているが、それ以上に千博は状況が分からなかった。
ーあいつがめちゃくちゃ弱いのか?そんな風には見えないが…。なら俺が強くなったのか?いや、それこそあり得ない話だ…一
よく分からないがこれなら武器がなくても奴に勝てる。千博は立ち上がり男の棍棒を掴む。
「ぐ…は、放せ!」
いける。やっぱりこいつの力はすごく弱い。掴んだ棍棒を奪いとり、左手で払いのけるとそのまま男は尻餅をついた。
「うぅ、何だよお前…。いくら何でも強すぎんだろ。」
「あ、あぁ。俺も驚いてる。」
素直な感想を率直に答え、千博は男に問い詰める。
「お前は誰だ?なぜ襲ってきたんだ。それと奥で何があった。」
男は座りこんだまま少しの間黙っていたが観念して話し始めた。
「俺はラッセル。山賊だ。あの馬車は俺たちが襲った。仲間が馬車の中の奴らを捕まえている間、見張りをしてたんだよ。」
「さ、山賊⁈ この時代にまだそんなのがいるのか⁈」
「そんなのって言うなよ!俺だって好きでやってんじゃねぇんだ。」
「え?なら何で…」
ラッセルはやれやれといった風にため息をつくと、話を続ける。
「そんなもん金がねぇからだよ。俺は両親も死んじまって一人だし。生きていくにはこれしかねぇんだ。」
「働けばいいだろ?」
「無理に決まってる。貧乏だったから勉強もしてねぇ。雇っちゃもらえねぇよ。…っ!まずい、そろそろ仲間と合流しねぇと。お前はどっか行け。ここにいると巻き込まれる。」
そう言って後ろを向き、立ち去ろうとする。
「待てよ!」
その後ろ姿を呼びとめる。なぜだろう。このままじゃいけない気がする。
「何だよ。早くどっか行けって言っただろ。」
「俺と一緒に行こう。」
「……は?何言ってんだお前。俺はお前を襲ったんだぞ。」
確かにそうだった。でも…
「お前は今俺を助けようともしてるだろ?」
「敵わないからあっち行ってて欲しいだけだよ。」
「違うな。」
即答する。意外そうな顔をするラッセル。
「どうしてだ?」
「お前には仲間がいるんだろ?全員を相手にしたら俺は負けるかもしれない。」
「……。」
「それにお前は嫌々山賊やってるみたいだし。やり直すんなら今しかないと思うぞ。」
ラッセルは黙って話に耳を傾けている。千博は続ける。
「こんな事してたって人生ツマラナイだろ?もっと楽しい人生の方がいいだろ?」
「ああ。」
問いかけるとラッセルは静かに返事をした。
「でもどうすりゃいいんだ?俺なんかがそう簡単に変わって楽しく過ごせるとは思えねぇ。」
「当然だよ。まずは自分のしたことの落とし前をつけなきゃな。」
「なるほど。けど…俺だけでできるかな?」
「手伝うに決まってるだろ。」
「いいのか?巻き込んじまって。」
千博は苦笑して答えた。
「今更何言ってんだよ?さあ、早速作戦でも考えようぜ。」
今思うとなぜ自分がこんなにも積極的に人と関わっているのか分からない。それも元山賊の男なんかと。環境の変化か、力の急激な強化があったからかもしれない。だが後悔は全く無かった。むしろ清々しい。
「…ありがとな。」
二人で作戦を練っているとラッセルが言った。
「まだ早いよ。」
千博は笑いかけた。今俺はこの状況をすごく楽しんでる。こんな事は初めてかもしれない。きっと成功させよう。そう思いながら千博はこの場所での一晩目を過ごした。




