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退院と捕まった男

翌日。昨日千博は退院し、ステラとともに自宅へと戻ってきていた。今ちょうど朝食をとったところだ。

「ごちそうさま。………さて、今日はどうしようかな。」

いつもなら朝食のあと訓練へと向かうところだが、千博は今日の予定について考え始めた。というのも、今日からしばらくの間、何もやる事がなくなってしまうかもしれなかったからだ。それは今の千博の体の状態が原因だった。特に外傷があるわけではないが、魔力が使えなくなってしまったのだ。当然、魔力が使えないからといって訓練に行かないと言うような事をするわけではなかった。しかし昨日、病院から出る時にフェリスにこう言われてしまった。

「君はしばらく訓練を休んでいた方が良い。まだ疲れが残っているだろうし、現状をグッさんにも伝えて今後のことを決める必要があるからな。グッさんには私から伝えておくから、君はゆっくりしていてくれ。」

「え⁈ いや、大丈夫だって!それにそんなゆっくりしているわけには……」

「………駄目だ。君はもう少し自分の体を大切にするべきだぞ。磨製丸を3つも使ったこともそうだ。それにその状態で怪我でもしたら大変だからな。」

フェリスは語尾を強めてそう言った。

「……分かった。じゃあ、グッさんやみんなによろしく伝えておいて。」

千博は諦めて素直にフェリスの言葉を聞いた。正直、まだ体は本調子ではない。言い返す言葉がなかった。

「うむ、伝えておく。それではな。しっかり休んでいるんだぞ。」

「ああ、わざわざありがとう、フェリス。」

そして千博達は自宅に帰ることとなったのだ。

「とりあえずあれだな、ステラの手伝いでもしようか。」

千博は立ち上がって食器を洗っているステラのもとへ向かう。台所へ行くといつものようにメイド服を着たステラが食器を洗っていた。

「チヒロさん?どうかなさいましたか?」

そういえば午前中にステラと家にいるのってほんとに久しぶりだな。いつもすぐに訓練に行ってたからなんか新鮮だ。

「俺も手伝うよ。」

「えっ?いえ、大丈夫ですよ?チヒロさんはゆっくりしていて下さい。」

「そんなこと言わずにさ。……これを拭けばいい?」

千博はステラが洗った食器を近くにあった布巾で拭き始める。

「そんなに気を使っていただかなくても………」

「いや、動いてないと体がなまっちゃいそうだしさ。これくらいさせてよ。」

「ええと……そういうことでしたらお願いします。」

「ああ。」

千博はステラの隣に立って食器拭きを始めた。とても穏やかな時間だな。ほんの数日前まで戦争してたなんて思えない。街も普段と変わらない生活が繰り広げられているようだし。まあそれは近衛隊の人達の判断とかが良かったからなのかもしれないけど。とても平和だ。そんな事を考えながら皿拭きの仕事をこなしていると、玄関から扉をノックする音が聞こえてきた。

「誰か来たみたいだ。ちょっと見てくるよ。」

千博は拭いていた皿を置くと玄関へ向かった。そして玄関の扉を開ける。

「おはようございます、チヒロ様。女王陛下の命により、お迎えにあがりました。」

そこには以前千博をこの家まで運んでくれた馬車の運転手がいた。そして当然のように家の前には馬車が止められている。

「すごい唐突だな。………えっと、女王様の命だっけ?それは一体何なんだ?」

「それは私には知らされておりませんが……大切な話のようです。退院されてからすぐの呼び出しで申し訳ないが、今日来て欲しいとの事です。」

「大切な話?何だろう。」

「私にはわかりかねます。」

「そうか……まあでもちょうど退屈してたしいいかな。着替えてくるからちょっと待ってもらっていい?」

千博はそう言うと扉を閉めて自室へ行こうとしたが、馬車の運転手に後ろから呼び止められて立ち止まった。

「あ、お待ちください!女王様からのお言葉ですが、正装で参上して欲しいとのことです。それと、あのメイドも連れてくるように、と。」

「え?メイドってステラの事か?」

「はい、チヒロ様のお宅にお仕えしているメイドを連れてくるようにと仰られておりました。」

「そうですか?分かりました。それならステラにも準備させておくよ。」

千博はまずは台所へと向かった。そしてちょうど皿を洗い終わった様子のステラに話の旨を伝える。

「ええっ?!わ、私もお城へ、ですか?!そんな、どうして!!」

「い、いや、俺にも分かんない。けど女王様が呼んでるみたいだから断るわけにはいかないだろ。」

「で、ですが、私などがお城へ行っても良いのでしょうか……?」

「何言ってんだ、前も行っただろ?」

「うぅ、そうですけど………」

一度城に行ったことはあるはずだがまだ抵抗があるのだろうか。ステラは酷く遠慮をしていた。

「安心しろって。女王様が信頼できる人って事は分かってるだろ?それに俺も一緒にいるから大丈夫だよ。」

「あ……はい……そうですね。チヒロさんがいらっしゃるなら……」

そう言うとステラは少し顔を赤くして返事をした。

「うん。じゃあそろそろ準備をしよう。迎えの人が待ってるから。」

「はい!」

千博は自室へと戻る。確か部屋のタンスに用意してもらった服があって、その中に他の服とは違う上質な衣装があったはずだ。正装というのはそれのことだろう。階段を上がり部屋に入ると早速衣装を取り出す。改めて見てみると本当にたくさんの種類の服がある。どれも派手なものばかりで中には袖にレースのようなものがついているものまであった。千博が使っている服は主に部屋着のような、シンプルな物ばかりだったのでそれらはタンスの肥やしとなってしまっているのだが。そんなたくさんの服の中から千博は黒いタキシードを取り出して着替えた。

「あー、これは初めて着たな。すげー変な感じがする……」

こういうタキシードって外人の人が着てるとすごいカッコよく見えるけど日本人の俺が着てて大丈夫だろうか。身長は特別に高い訳ではないが175はあるから何とか足りているかな。近くの鏡で自分の姿を見てみるがいまいち似合ってるのかは分からない。まあいいか。あっちのひらひらがついているのよりかはましだろう。千博は部屋を出てステラのもとへ向かった。

「ごめん、待たせたな。じゃあ行こうか。」

「………!」

階段を降りてステラに話しかけるが返事が返ってこない。

「……おーい、ステラ?」

「⁈ あ、は、はい!凄くお似合いです!」

「……え?何の話?」

ステラの返事は千博の呼びかけと噛み合っていない。何だ、似合ってるって。………あ、もしかして……

「ひょっとして、それ、俺の事?」

「ごめんなさい……私、つい……」

「いや、良いんだ。そっか、似合ってんのか。ステラがそう言ってくれるんなら大丈夫かな。」

「は、はい!完璧です!」

それは言い過ぎだろう。まあいいか。変だと言われなかっただけ良かった。千博は一先ず安心して玄関を出るとステラと一緒に馬車へ乗り込んだ。





「到着致しました。どうぞ、足下にお気をつけください。」

「あ、どうも。」

ゼウシア城に着き運転手さんに丁寧に馬車から降ろされると門の前で1人のメイドが待っているのが目に入った。

「あっ!アリスさん!」

「お、本当だ。」

先にステラが駆け寄っていく。その後に千博も続いた。城の門の前にいたのはゼウシア城のメイド長、アリスだった。

「お久しぶりですね、ステラ。元気にしていましたか?」

「はい!また会えて嬉しいです、アリスさん!」

「私も嬉しいです、ステラ。それに、チヒロ様もお久しぶりです。この度は女王様をお助けいただいて……本当にありがとうございました。」

アリスは深々と頭を下げた。

「何言ってるんですか。助けられなきゃ俺が近衛隊には言った意味はありませんよ。俺はお礼を言われるような事はしてませんって。」

「そんな事はありません。チヒロ様は皆様の女王を助けて下さった英雄です。本当にありがとうございました。」

「そんな……言い過ぎですよ。」

千博は照れ臭くなって頭を掻いた。どうも自分は人に褒められたりするのは慣れていないようだ。特に綺麗な女性には。目の前のアリスさんもまだ二十代前後の綺麗な女性だ。これ以上は耐えられないと、千博は話題をそらすことにした。

「あの……それで、俺はどうして呼ばれたんでしょうか。」

千博が尋ねるとアリスは一瞬不思議そうな顔をしたが、すぐに何かに納得したようだった。

「ふふ、今からご案内致しますね。」

そして2人はアリスの案内で城の中へと進んだ。城の中へ入ると大きな扉の前でアリスは立ち止まった。

「チヒロ様、暫くここでお待ちになってもらってもよろしいですか?」

「え?はい。構いませんけど……」

「申し訳ありません。それではステラは私についてきて頂けますか?」

「は、はい。」

そう言うと何故かアリスはステラだけを連れて何処かへと行ってしまった。一人取り残された千博は大きな扉の前でただ呆然とすることとなった。

「それにしても、やっぱり広いなぁ。どれくらい部屋があるのか分かんないな。」

何もする事がなく暇な千博は辺りを見渡して呟く。

「この部屋……部屋っていうかホールか何かなのかな。随分と広そうだけど何をするところなんだろう。」

目の前の大きな扉を見て疑問に思う。それに、中から何人か人の気配も感じる。何か行われるのだろうか。少し覗いて見ようかな。

「すまない、待たせたなチヒロ。」

と、扉に手をかけた瞬間横から声をかけられた。

「あれ?クロードさん!どうしたんですか?」

声の主は近衛隊隊長のクロードだった。いつもの様に近衛隊の制服を身につけている。クリーム色が基調の近衛隊の制服だが、隊長であるクロードのものは普通の兵とは違って肩に走る3本のラインの色が青ではなく赤だ。

「どうした、だと?………はあ、アリスめ、またあいつは説明をしなかったんだな。」

「説明?どう言うことですか?」

ため息をつくクロードに千博は尋ねる。するとクロードは真剣な表情となって千博に告げた。

「お前に会ってもらわなければならない奴がいる。今からそいつのところへ行くんだ。」

「会ってもらわなければならない奴って……。一体誰なんですか?」

千博は首をかしげた。会ってもらわなければならない?会って欲しいじゃなくて?何で義務になっているのか分からないが、とりあえずクロードさんの様子から察するに何か重要な事らしい。だが一体、俺に会わせたい奴とは誰なんだろうか。

「アサクラ・ヒデトだ。」

「!!」

クロードが口にした名前はよく覚えている。今回のゼウシア襲撃、ならびにユリア女王誘拐の件の首謀者。ミーツェに深い怪我を負わせた張本人。そして千博と同じ世界から来たかもしれない人物である。アサクラから聞きたいことは山ほどあった。

「あいつと話ができるんですか⁈ 」

「ああ。と言うより、してもらわなくては困るんだ。お前には一つ頼みたいことがあるからな。………まあいい。これは歩きながら話そう。奴は今、この城の地下牢だ。迷わない様についてこい。」

「は、はい。」

この城、地下牢があったのか。そしてそこにアサクラがいる……。普段なら地下牢と聞いたらきっと驚いただろうが、今はそれよりアサクラに会えることで頭がいっぱいだった。そして千博ははやる心をおさえながらクロードについて行った。






コツコツコツと階段を降りる足音が聞こえて来る。おかしいな、朝食ならさっき食べたし、まだ昼食には早いはずだが……。朝倉秀人(あさくらひでと)はいつもと違う足音のタイミングを狭い牢屋の中で不審に思った。秀人がいるのはゼウシア城地下の牢屋だ。牢屋といっても刑事ドラマでよく見る牢屋とは違って簡素なトイレと本当に小さな窓しかない。もちろんベットや机などは無く、ひどく殺風景で寂しい空間だった。まあ、こんな所に入れられたのは投獄されるに値することをしてしまったから当然であり、何も文句は言えないのだが、牢屋の生活はあまりに退屈なものだった。せめて本などがもらえれば退屈はしないのだが。不満はあったが、それでも三食の食事や毛布をもらえたのはありがたかった。生かしてもらえているだけ幸運なのだろう。毛布にくるまって寝っ転がってそんな事を考えていると、足音が牢屋の前で止まった。どうやら数は1人のようだ。これは不定期な見張りかな。そう思ったアサクラはその人物の方を振り向こうとはせず、背を向けたままで寝たふりをしようとした。

「おい。寝てんのか?」

しかし、その人物の声を聞くと秀人は振り返らずにはいられなかった。その人物は秀人の退屈をどんな形にしろ必ず壊してくれる様な男だったからだ。

「やあ……驚いたな。まさかまた君に会えるとはね、マナカチヒロ君。」

「俺もそう思ってたところだよ、アサクラヒデト。」

そう、その人物は真中千博。秀人がこの牢屋へと放り込まれる原因となった男だった。

「いや、嬉しいなぁ。まさかわざわざ会いに来てくれるなんて。」

だが、別に大きな恨みをもっているわけではない。確かにあの日、千博が居なければ秀人はあのまま自身の恩恵(ギフト)・《不可視化(インビジブル)》で逃げおおせることが出来たはずだった。しかし、彼の思いがけない謎の力の前に秀人の恩恵(ギフト)は封じられてしまったのだ。結果、逃げきることも出来ずに千博に捕まってそのまま牢屋行きとなったのだ。だがそんなのは全て自分の考えが浅かったせいだ。自分は自身の恩恵(ギフト)が完璧であると思い込んでしまった。それが今の結果を招いた。故に秀人は自分が千博を恨む理由はないと割り切っていた。

「……怒ったりしないんだな。」

「まさか。何で僕が怒らなきゃいけないんだい?僕は君達に捕まって当然の事をした。それで僕は逃げきれず捕まった。それだけじゃないか。それに………」

そこまで言って秀人は先程までの軽い笑顔を消すと、表情を曇らせた。

「怒りたいのは君の方だろう?チヒロ君。その………彼女は無事なのか?」

「………ミーツェの事か。ああ、なんとかな。まだ会ってはないけど無事みたいだ。」

千博は秀人の質問を察し取って答える。ステラから聞いた話ではミーツェは同じ病院で千博より先に意識を取り戻していたそうだ。しかし体力の回復と腹部の怪我のこともあってまだ寝ていたようだ。退院する時にお見舞いをしようかと思ったがまだ安静にさせていなければいけないとのことで医者に止められてしまっていた。

「それは良かった……それが彼女の名前だね?覚えておこう。あの子には本当に悪い事をした。」

「悪い事をした、だって?どういう事だ。」

千博は秀人の言い方に違和感を覚えて追求した。

「………いや、何でもない。言ったところで僕の言葉を君は信用しないだろう。」

「そんなことない!いいから教えろ!今のはどういうことなんだ?」

秀人の何かを隠しているような態度に語尾を強めて尋ねる。すると秀人は暫く千博の様子を見ていたが、話してみて損はないか、と呟いた。

「僕が彼女を傷つけてしまったのはわざとじゃない。つまり、事故だったって事だよ。」

秀人は静かに、だが確かにそう言った。

「………それは本当か?」

「へぇ、あまり疑わないんだね。まあ……言いたいことはそれだけだよ。信じるか信じないかは君が決めてくれ。」

「………そうか。」

秀人の答えを聞くと千博は数秒の間顎に手を当てて何かを考えていたが、秀人に再び質問をする。

「それならあの時どうしてミーツェに怪我をさせてしまったのか、実際のところを教えてくれ。」

その質問を聞いて秀人は面食らった。その理由は千博が”実際のところ”と言った所にあった。この聞き方だと、ほとんど千博は秀人の話を信じている様に思えたからだ。どうして千博がこんな簡単に自分の話を信用するのか分からなかった。

「………どうしたんだ?早く教えてくれ。」

何も答えずにいると千博に返事を催促される。秀人はそれにはっとすると答え始めた。

「あの時、槍の下半分を囮にして上半分を持ったまま僕は扉から出ようとした。追いつかれるのを恐れてひっそりではなく急いで移動していた。でもそれがいけなかった。君達ばかりに気を取られていた僕は扉の方に注意がいっていなかった。そのせいで急に前に飛び出してきたミーツェさんに気づかなかったんだ。そしてそのままミーツェさんとぶつかって、その時に持っていた槍の穂先が刺さってしまったんだ。……あの時はどうしていいか分からなくなったよ。でも僕は結局自己保身に走ったんだ。………はは、どうだい?酷い話だろう?」

秀人は最後には自分への皮肉を言うかのようにうっすらと笑みを浮かべていた。千博は黙って話を聞いている。返事は求めていないのか、静かな千博を見ても秀人は特に何も言わず、話を続ける。

「どうせ捕まるのならあの時あの場を逃げずに少しでも早く捕まっていればよかった。君が魔力を使えるなんて知らなかったんだ。そうしていればもっと早くに治療にあたれていただろうにね。………でも彼女が助かっていてくれて本当に良かった。間接的ではあるけど僕も少しは彼女の役に立てていたみたいだしね。」

………役に立てた?千博は秀人の最後の言葉に首を傾げた。一体どういうことなのか。だが、それ以上に千博は気になっていることがあった。

それは朝倉の態度だ。これは勘でしかないが、今までの朝倉の言葉には嘘がないように感じた。秀人はミーツェを傷つけるつもりはなかったのだろう。だからその後のミーツェの安否も心配していた。それに、それを確かめる為に自分から1番にそれを尋ねてきて、それ以外には彼から千博に対しての質問はほとんどなかった。これらの事から千博は秀人の言葉を信じてもいいと判断した。そしてそれに対して秀人は千博に対して疑問を抱いていた。ここまで自分が話していてばかりで千博は何も疑ったり、途中で質問をしてきたりしていない。それが不思議だった。今の自分の状況を周りから見たら確実に言い逃れをしているように見えているはずだが何故千博は何も言わないのか。

ーーまさか、心が読める、とか?いや、それなら僕に当時の事を聞く必要なんてないか。一体どうしてなんだ?何を考えている?ーー

秀人は千博の思考を読み取ろうと今までの会話を思い出そうとしたが、そこで千博が口を開いた。

「お前の言い分はよく分かった。……だから最後に一つだけ質問をする。」

「……なんだい?」

「お前の今回の件での、最終的な目標は一体何だったんだ?」

なるほど、確かにそれはまだ誰にも話していなかったな。秀人は質問されて始めてその事を認識した。だが、言わずとも予想は簡単にできるはずだろう。単純に考えれば秀人の目的というのはアレギスの国王と協力し、ゼウシアを支配下に置くということだ。実際、多くの人の大体の理解はこの考えにまとまっているだろう。しかし千博はそこを敢えて尋ねてきている。つまり、彼は秀人の本当の目的について何かを感じ取っているのかもしれないと考えられる……。

「………変なことを聞くね?そんなのゼウシアをアレギスの支配下に置くことに決まっているじゃないか。」

しかし秀人は敢えてここで千博を試してみる事にした。ここでもし何も言ってこないのなら自分の深読みのし過ぎ。もし千博が反論をしてくるようなら思っていたよりも千博が鋭いということになる。

「いや、それはお前の目的じゃなくてそのための方法だろ?今回の件を通して、お前は何がしたかったんだ?」

「………へぇ……」

千博の返事を聞いて秀人は驚いた。これは予想以上だ。千博は鋭い。何か感じ取っているどころか別の目的がある事を確信している様だ。そう考えて秀人はにやりと笑った。

「ふふ、驚いたな。まさかそこまでわかっているなんて。本当に面白いね、君は。………いいよ、ここまで聞いてきたのは君が初めてだし、最後の質問って言ってたしね。教えてあげるよ。何で僕があんなことをしたのか……。」

千博がここへ来たということは自分への処分が近いということだろう。そしてそれは恐らく死刑。最後のはからいとしてこの時間を設けたのか、秀人が死ぬ前に会っておきたいと千博が頼んだのか、理由は分からないが何らかの処分が下されるのは間違いない。秀人はそう感じ取った。死にたくないなどと抗ったりはしない。覚悟なら捕まった時からすでに決まっている。抵抗する気などさらさらなかった。だからその分、最後に千博に自身の身の上の話をしても文句はないだろう。そう考えて秀人はゆっくりと語り出した。


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