シーザーvsクロードと合流
アレギス城正門から城内へと続く道でクロードとシーザーは対峙していた。石造りの広い道の脇には芝が敷きつめられ、木々の配置も良く考えられ手入れがよく行き届いている。門から城までの丁度真ん中辺りには噴水が水しぶきをあげていた。
「………流石はゼウシアの近衛隊隊長、と言ったところですね。」
互いに斬り合うこと数十回、シーザーがクロードに賞賛の言葉を贈った。
「……貴様も、口だけの男ではない様だな。」
そしてクロードもシーザーの剣の腕を認めざるを得なかった。クロードは近衛隊随一の剣さばきをする男だ。その彼に引けを取らず数十回も打ち合えるシーザーはかなりの腕前だった。
「……だが安心した。お前が相手なら少し魔力を出しても構うまい。」
「ほう……それは楽しみです。」
そう言うとクロードは手に持った剣をシーザーに向け、その場で数回振った。
「……?何を………」
疑問に思ったシーザーだったが次の瞬間、シーザーはクロードの行動の意味を理解した。クロードが剣を振って生み出した剣閃が空中にとどまり、それがシーザーに向かって襲いかかった。シーザーは後ろに跳び、距離をとってその剣閃を剣で弾く。
「……それが貴方の魔法、斬空剣ですね。なるほど、聞いていた通り厄介そうだ。」
「………そうか?その割には貴様、随分と落ち着いている様に見えるがな。」
「……まあ、厄介そうですが防げない事はありません。」
「……そうか。それならこれも防いで見せろ。いくぞ!」
クロードはそう言って剣を振り、次々と剣閃を生み出す。数十もの剣閃がシーザーを全方位から襲った。が、シーザーは今度は避ける様子も見せずに地面に剣を刺し突っ立っている。その顔には笑みさえ浮かべていた。
「面白い技ですが私には通用しない……!《金剛鎧》!」
クロードが放った剣閃は確かにシーザーの体を斬り裂いた、筈だった。
「……⁈ 何をした……?」
しかしシーザーは無傷でクロードの目の前に立っている。クロードは思考を巡らせる。自分の剣閃は確かにシーザーに当たった。だがシーザーには傷一つない。それならこの不思議な現象が意味するところはただ一つだった。
「………魔法か……?だが何の……」
そう、考えられるのは魔法。剣閃が当たる前にシーザーが何か魔法を使ったのだろう。恐らくは防御力の強化。だが剣閃を防ぐほど体を硬化させる事は相当な魔力の持ち主でなくては不可能だ。常人の10倍以上は必要となるのではないか。この芸は常人の何倍もの魔力を持つチヒロでさえもできるか分からない所業だ。
「………不思議そうですね。まあ、自慢の刃を止められては無理もありませんか。」
「貴様……その魔法、特殊魔法か。」
クロードは眉をひそめた。特殊魔法。それは生まれつきその人が体に持ちあわせて使うことの出来る特別な魔法だ。通常、魔法で物質を生み出す場合、生み出す事が出来るのは魔力の《変換》による四大元素だけだ。しかし時としてこれら以外の物質を生み出したり、才能として特別な魔力の使い方をできる者がいる。これらの魔法はこの世界でも説明がつかないような存在であった。そしてシーザーもその魔法が使える一人だった。
「種明かしをしましょうか。私の魔法はいかなる物質をも金剛石にする事が出来る。つまり今、私は自分の体を金剛石の硬度にして貴方の剣閃を弾いたのです。……だから貴方の剣閃が何処から私を襲おうと、どれだけ私を斬りつけようと、貴方の攻撃は私には通用しません。例え無数の剣閃を生み出したところで所詮は鉄の剣から出た鉄の剣閃。金剛石は斬れません。」
余裕のある表情で言い切るシーザー。確かにシーザーの言葉は正しいだろう。強度からすると鉄はダイヤモンドに劣ってしまう。鉄の剣でダイヤモンドを斬るのは困難だ。
「なるほど、となると、俺の剣閃でお前を斬るのは難しいか………」
「ええ………だから諦めて大人しくしていて下さい。私も別に貴方を殺そうとは思っていません。私の仕事は時間稼ぎですから………」
クロードが勝ち目の無いことを理解したととったのか、そう言ってシーザーが剣を下ろす。が、クロードの口から出た言葉はシーザーの予想とは違った。
「何を言ってる?難しい、と言っただけだろうが。」
そう言うとクロードは再び剣閃を幾つか空中に生み出した。そしてシーザーに向かい一筋の剣閃を飛ばす。
「何をするかと思えば……悪あがきですか。無駄ですよ。」
クロードが飛ばした剣閃は空中に浮かばせていた内のたったの一筋。これなら《金剛鎧》を使うまでもない。シーザーは手に持っていた剣でその剣閃を受けた。が、
「……え?」
驚きの声がシーザーの口から漏れる。それもそのはず、シーザーは剣閃を受けきれなかったからだ。シーザーの剣身は真っ二つに切れていた。
「 何だ⁈ 」
「なるほどな、剣閃二つ分でこの切れ味と言うことは……ダイヤモンドだとあと二斬りくらい重ねれば余裕で斬れそうだな。」
「っ⁈ どういう事だ⁈ 」
「簡単な事だ。俺は剣閃を操れる。それは空中に出して自在に動かせるだけではない。だから二つの剣閃を一つに合わせ、倍の威力の剣閃を生み出すのも可能だ。」
クロードの魔法は生み出した剣閃を操る、というものだ。だがこれは特殊魔法ではない。クロードは魔力を剣閃に《留化》させているのだ。魔力の《留化》は通常、形ある物に対してしか使われない。それは形ある物への《留化》の方が単に簡単で、形ない物への《留化》は魔力操作に強靭な集中力が必要だからだ。そしてこの剣閃の魔法の場合は卓越した剣さばきの腕も必要だ。クロードはその剣の腕と集中力とを厳しい訓練と修行の中で手に入れたのであった。
「ぐっ………まさかそんな事も出来るとは……実力を見誤った様ですね。」
シーザーに焦りの表情が浮かぶ。対してクロードはとても落ち着いていた。そしてシーザーに尋ねる。
「さあ、それでは教えて貰おうか。貴様は何の時間を稼いでいるんだ?」
アレギスの弓兵の不意打ちをかわしたチヒロとミーツェはアレギス城へと続く道を馬で走っていた。
「とりあえずアレギス城の近くには来れたけど………これからどうする?あの弓兵がいたってことは俺達がくる事はアレギスにばれてたんじゃないか?」
「うん、多分このまま真っ直ぐ行っても城の門とか周りには兵が居るんだろうね。」
この先の事を考えようと尋ねた千博だったが、ミーツェはあまり焦っている様子はない。何か策でもあるのだろうか。……それにしても、先程から千博達はアレギスの城下町を駆け抜けている訳だが、町はやけに静かだった。もしかしたら事前に住民が避難させられているのかもしれないが、活気がない。道も整備が行き届いていないのか、でこぼこで馬の揺れも激しかった。今は城にかなり
近くなって来ているから民家や店こそ多いものの、アレギスへ入ってから暫くは畑が多くのどかな雰囲気だった。この世界にも国ごとで発展には差があるんだな、と千博は思ったが、発展こそ遅れていてもアレギスの国の政治はあまり荒れている訳ではなさそうだ。そんな事をおもっている内にアレギス城が段々と近くになってきた。
「この調子だともう城に着くけど……どうする?やっぱり馬から降りたほうがいいよな。」
今回の作戦はユリア女王の救出だ。別に敵と真正面から戦う必要は無い。寧ろ見つからない様に潜入した方が兵が集まらずスムーズに事が進む筈だ。
「そうだね。でももうちょっと近くに行こう。ギリギリまで近くづいた方が楽だし。」
「そうだな。まあ、もうちょっとくらいなら近づけそうだしな。」
確かに、近づけるだけ近づいた方が時間は短縮出来そうだ。千博もミーツェの意見に賛成して先に進む。進んでいくとすぐに門が見えてきた。案の定、門の前には数十人の兵が構えている。
「ミーツェ、そろそろ降りて隠れながら行った方が……」
「んー、もうちょっと。」
「え、でもこのままだと気付かれるんじゃ………」
「まだまだ、もうちょっと。」
「お、おい、ミーツェ?なんかみんなこっち見てるけど………」
「もうちょっとかなー。」
そこで千博はようやく気づいた。……ミーツェは止まる気なんてさらさら無いんじゃないか、と。千博に嫌な予感がよぎる。
「よしっ!行くよ、チヒロ!」
「ちょっ、お前っ!行くよじゃねぇーーー!」
千博の絶叫とともにミーツェは馬を門の前の兵達へ向けて突っ込む。
「来るぞ!捕らえろ!」
「「「おおっ!!」」」
アレギスの兵達は果敢にもその場を退こうとしない。やばい、このままじゃこっちも向こうもタダじゃ済まないぞ⁈ と、思った瞬間、千博の体は宙に浮いていた。
「え⁈ あれ?俺、飛んでる?」
「落ちないでよ?チヒロ!」
違った。飛んではいない。しかし宙には浮いている。気付くと千博の体には鎖が巻き付いていた。馬が門の兵達に突っ込む寸前の所でミーツェが《大蛇の牙》を門の上の方へ伸ばし、城門の上へと2人を引き上げたのだ。
「………おお、生きてる。」
千博 はひとまずホッと安心して下を見てみる。兵達は呆気にとられている。千博達が乗ってきた馬はしっかり自分の身の危険を感じ取って急ブレーキをかけた様だ。今は脚力の強化で疲れてしまったのか地面にへたり込んでいた。……なんかあの馬に可哀想なことしたな。帰ったらあれだ、人参とかあげよう。
「安心してる場合じゃないよ!ほら、城の中に急ごう!」
そんな事を考えていた千博だったがミーツェの声で気を取り直す。そうだ、急がないと。千博とミーツェは再び《大蛇の牙》で下へ降り城へ続く道を走り出す。
「……あれ?あれって……」
走って行くと人影が見えた。数は2人。千博達は一瞬警戒したが、近づくとすぐに警戒を解いた。
「クロードさん!良かった!無事だったんですね!」
そこに居たのはクロードと敵兵らしき男だった。もっとも、既に闘いは終わったようで敵兵は跪き、その周りには何か黄色い線の様なものが浮いていた。
「チヒロにミーツェ⁈ どうしてここに……」
クロードは仲間の突然の出現に驚いている様だ。敵兵も驚いた顔で2人を見ている。
「話はあと!ねぇ、隊長!ユリ姉はどこっ⁈ 」
ミーツェがクロードに迫る。するとクロードは若い敵兵の方を向いて苦々しい表情で答えた。
「それが……女王と離れ離れになってしまってな。こいつの話では城内の王の間にいるらしい。」
「王の間ですか……クロードさん、場所は分かりますか?」
「ああ、分かっている。急ごう。」
3人は急いで城内へと向かおうとする。
「……あ、この人は……どうするんですか?」
千博はさっきから気になっていた敵兵の方を見た。
「ふむ、まあほっておいても良いのだが………」
「いいよ、連れて行こう。……あんた、格好からして結構偉い人だよね。他の兵に攻撃を止める様に言ってよ。」
ミーツェはそう言って《大蛇の牙》で男を拘束する。
「………ぐっ、そんな事する訳がないだろう⁈ 私は最後まで屈しない!」
「ふん、敵3人を前にして大した度胸だな、シーザー。まあいい、拘束は頼んだぞ、ミーツェ。よし、行くぞ!着いてこい。」
そして千博達4人は走り出した。
「それにしても、無事に合流できてまずは一安心しました。」
千博は城内を走りながらクロードに話しかけた。作戦では始めにクロードと合流する事がベストだったのだ。
「ああ、俺も心強い。……ところで、ゼウシアの様子は……」
クロードはゼウシアの状況が気にしていた。先程のシーザーという男に聞いたのだろうか、アレギスが攻めてきた事を知っている様だった。
「それが今……ゼウシアではグッさん達、近衛隊のみんなが頑張ってくれています。でも相手は五万でこっちは五千だから……」
「………分かっている。まだ態勢が整っていないのだろう?それで、住民の避難はどうだ?完了したか?」
「………!避難って……」
千博はクロードの言葉を聞いて青ざめた。そう言えば自分のことばかりで町の人の避難を考えていなかった。……くそ、何が落ち着いている、だ。周りが全然見れてなかったじゃないか!ユリア女王だけじゃなくて、みんなも守んなきゃいけなかったのに!
「大丈夫だよ、隊長。第四、五班が戦線に出てるうちに他の班のみんなが避難を進めてくれてたから。」
千博が答えに詰まっているのに気づいてミーツェがフォローを入れた。
千博もそれを聞いて安心する。だが千博にはもう一つ心配な事があった。それは、ステラの事だった。この戦いが起きて、ここに来るまでにステラに何も言ってこなかった。あの屋敷は城の裏で町から少し離れているから敵からも遠いが避難を呼びかける兵が来てくれたか心配だった。千博は自分のうかつさを後悔した。事前にもっと緊急の時のことについて話しておくべきだった。
「ステラ、無事でいてくれ……!」
千博は小さな声で願うように呟いた。
「………そうか、避難が済んだのなら良かった。後は何とかなるだろう。」
「………え⁈ そ、そんな軽くて良いんですか⁈ 」
避難の完了を聞くとクロードの顔から焦りの色が消えた。千博は不思議で仕方なかった。五万対五千だぞ?普通なら何で心配しないことがあろうか。それなのにクロードは安心している様子だ。
「……安心しろ、うちの近衛隊をなめるな。攻めてきた兵が多かろうと戦い方を工夫すれば問題はない。それに今回は防戦だからな。真正面からぶつかり合うわけでは無いんだ。それに、お前もあいつらの力をよく知ってるだろ?……だからお前もあいつらを信じてやれ。それで、俺達は俺達のやる事をするんだ。」
「………クロードさん……」
これが仲間への信頼、か。今戦ってくれている人達、グッさんにフェリス、それにきっとラッセルも戦っているだろうか。俺は確かにみんなが心配だ。でもそれがみんなを信頼していないという事になると考えたら……。今はゼウシアの事はみんなに任せよう。クロードさんの言う通りだ。みんなが頑張っているならその分、いや、その倍は自分の役割を果たさないと。千博は集中しなおした。
「大丈夫だな?チヒロ。女王を助けて無事にゼウシアに戻ろう。……そうだ、王の間に行けばアレギスの国王に侵攻を止めさせられる。」
「……!そうか!それなら尚の事急がないと!」
「ああ、そうだな。」
そして気を強く持ち直し、千博は王の間へ女王救助に向かった。
「どういうつもりですか、ドルトン殿?」
客室で縛られ、捕まったユリアはアレギスの国王、ドルトンの元へ連れてこられていた。玉座に座っているドルトンは立ち上がりユリア女王に近づく。
「すまないな、ユリア女王。あまり手荒な真似はしたくはなかったのだが。」
「……それなら、その手荒な真似をした理由を教えて頂きたいですね。」
ユリア女王はドルトンに問う。王の間の中には部屋の入り口に衛兵が2人、ユリア女王の横に兵が2人、そしてドルトンの両脇にも兵が2人いた。それだけではない。ドルトンの横にはもう1人男がいた。
「それは僕から話しましょうか。ドルトンさん。」
「ふむ、そうだな。頼もうか、ヒデト殿。」
ユリア女王の質問に対して口を開いたのはアサクラ・ヒデトだった。それにしてもこのアサクラという男、王のことをさんづけで呼んでいた。この男は家臣ではないのか?何故ドルトンに一目置かれているのだろうか。ユリア女王は不審に思う。
「率直に言いますよ、ユリアさん。ゼウシアをアレギスに譲って下さい。」
「………は?」
ユリア女王はヒデトの言葉を即座には理解できなかった。それはあまりに突拍子のない内容だった。ユリア女王は耳を疑う。
「つまりですね、ゼウシアをアレギスの配下に置きたい、という事なんですよ。了承して貰えますか?」
ヒデトは混乱するユリア女王に構わず話を進める。
「ち、ちょっと待て!何を言ってる?了承、だと?」
ユリアは更に混乱していた。百歩譲ってゼウシアを配下に置きたい、という事は理解できる。ゼウシアへの交渉材料としてユリアを捕らえたと言うのならそれも理解できるだろう。しかしそれなら何故ユリアに了承を得る必要がある?女王と引き換えに国を渡せ、という脅迫ではないのか?
「了承、という事は拒否が出来るという事で良いのか?」
「あー……それはまあ、了承して欲しいんですけど。拒否するのは自由ですかね。」
話が噛み合っていない。ユリア女王は翻弄される。
「でも、拒否はおすすめしませんよ。今、ゼウシアにはアレギスの兵を五万、送ってあります。貴女が要求をのめば進軍は止めることになっていますから。」
「っ⁈ 何だと⁈ 」
「はい、だから要求を呑んで貰えます?」
「ぐっ……貴様ら!ドルトン殿、見損なったぞ……!」
ユリア女王はヒデトとドルトンを睨む。ドルトンは決まりが悪そうに目を逸らすがヒデトは全く気に留める様子はない。
「さあ、パパッと決めてしまいましょう。……そうだ、質問とか有れば聞きますけど?」
ヒデトはユリア女王に決断を促す。ユリア女王は迷っていた。自分には国民を守る義務がある。無駄な血を流さぬようにするにはヒデトの言う条件を呑むのが早いだろう。しかし、代々続いてきたゼウシアをこの代で終わらせてしまって良いのか。決断に迷った。
「………そうだ、何故お前達は私を殺さないのだ?国をとりたいのなら私を生かしておく必要はないだろう?」
迷うユリア女王に疑問が浮かんだ。ヒデトはゼウシアに兵を送ったと言った。それなら武力で制圧して国を占領すれば済む話だ。恐らくだがゼウシアの近衛隊の者達もこの進撃には備えていなかった筈だ。五万という大軍の奇襲をかければ国一つくらい落とすのは容易いのではないか?
「………気づきましたか。まあ、教える必要はないことですが……いいでしょう。教えてあげますよ。」
ヒデトは少し意外そうな顔をしたが、ユリア女王の質問に答える。
「貴女の国、ゼウシアの経済が貴族の支援に頼っていることが問題なんですよ。それが僕達が同盟の締結を止めてこうした理由でもある。」
「……どういう事だ?」
「ゼウシアは貴族を保護し、政治への発言権を与えることで資金などの援助を受けている。国の発展は貴族のおかげと言っても良いでしょう。だからアレギスが同盟で利益を得る為にはゼウシアの貴族を取り込む必要がある。でも仮にアレギスがゼウシアと同盟を組んだとしても既にゼウシアの貴族は安全を得て自分達の好きな様に生活出来ている。そんな状態で僕達はゼウシアの貴族に何が提供出来ますか?」
「………だが、同盟の内容は両国間の和親だった筈だ。何故急にそこまでの利益を求めるのだ。同盟を結べば自然と貿易も盛んになるだろう?」
「………なりますか?本当にそう言い切れます?」
「それは………」
ユリア女王は答えにつまる。確かに同盟を結んで貿易をしたとして、物の取引は可能でもアレギスが望む様な技術支援などは行えないかもしれない。技術開発に資金を出すのは貴族であり、技術を握るのも貴族だ。平和に現状維持を望むのならこの貿易でも構わないが、今のアレギスはそれ以上の発展を望んでいる。
「それならゼウシアを配下に置いた方が早いでしょう。貴女を生かしておいたのはゼウシアがアレギスの下に着いた後、そのままゼウシアの政治をとって貴族の相手をしてもらうためです。もちろん、貴族が提供してくれる資金はアレギスに献上して貰いますけど。だから貴女はこれからもゼウシアを治められるんです。悪い話じゃないでしょう?」
「………それではゼウシアの財政が崩れるではないか!悔しいが今のゼウシアは貴族の資金に経済を頼っている………」
「その辺は何とかして下さいよ。国民には人気があるんでしょう?少しくらい税を上げても文句は言いませんよ。」
「………っ!貴様………」
ユリアは言い返す言葉が見つからなかった。国の状況をすっかり見透かされている。
ーーぐっ……客室でクロードの言った通りにあの石を壊したからクロードには状況が伝わっている筈だ。せめてクロードが入ればここから逃げられるが……。私が決断に渋っている間に国への侵攻が進んでいる。これでは国民が……ーー
ユリアは悔しかった。父が亡くなった後、自分は必死に国を栄えさせようとしてきた。確かに国は栄え、争いもなく、人口も増えた。だがそのせいで他国からの食料の輸入も増え、経済は貴族に頼らざるを得なくなった。そして今、国民の平和さえもが脅かされている。
ーーせめて国民の平和だけでも守らねば………やはりここは要求を呑むしかないのか………ーー
「さあ、もういいでしょう。ゼウシアはアレギスの配下につく。それで良いですね?」
「………分かった。ゼウシアはアレギスの配下に………」
ヒデトがユリア女王に迫り、考え抜いた末に決断を出したユリアだったがその言葉は最後までは続かなかった。扉が勢いよく開き、近くにいた衛兵が侵入者を拒もうとして吹き飛ばされる。
「何だと⁈ 貴様らは………」
ドルトンが扉の方を見て驚く。が、それはその場に居た全員に共通した驚きだった。
「クロード!それに、チヒロとミーツェ⁈ 」
ユリア女王の重かった表情が一変して明るくなる。そして既に剣を抜き放ったクロードが声をあげた。
「さあ、外道共!ユリア女王は返してもらうぞ!」




