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夕食のお誘いと千博の魔力

「な、何?俺は何をすれば?」

フェリスの勢いに押されて否応無しに引き受けてしまう。

「あ、それは………」

「?」

勢いのあったフェリスだが、頼み事の内容を聞くと急に黙ってしまった。さっきのフェリスの表情から察するに、何か大切な事なんだと思うんだけど………。

「………てほしいんだ。」

何も言えずずっとフェリスの方を見ていると遂にフェリスが口を開いた。が、声が小さくて始めの方がよく聞こえなかった。

「………ごめん、もう一回言って?」

「だ、だから………明日夕食を食べ……」

「?」

………夕食?今度はなんか最後の方がよく聞こえずいまいちフェリスのお願いの内容がわからない。

「………すまん、もう一回……。」

もう一度聞き直すと流石にイラっときたのか、フェリスは声を荒げて答える。

「〜〜〜っ!だから、夕食に行こう!明日!一緒に!」

「へ?」

あまりにも意外な頼みに肩から一気に力が抜ける。もっと深刻な事かと思ってたけど……。フェリスの方を見ると目を逸らされる。しまった。何回も聞き直したのが悪かったか?よく見ると顔が真っ赤になってるみたいだし……。かなり怒ってるのか?

「ご、ごめん!そんな怒るなって!

行くよ、行くから!」

謝りながら頼みを受けると、フェリスの顔が明るくなっていく。

「本当か?良かった……。じ、実はな、街で一番人気のレストランの予約がとれたんだ!だから、その……良ければチヒロと、と思って……。」

そう話すフェリスの顔はとても楽しそうだ。きっとそのレストランに行くのがよっぽど楽しみなんだろう。まあ、街一番って言ってたしな、当然か。

「そっか、それは良いなあ。今から楽しみだよ。」

「う、うむ!よし、それでは明日の夜、7時に店に来るんだぞ!店の名前はラ・ノーブルだからな。噴水の近くにある店だ。絶対だからなっ!」

「おう、7時だな。期待してるよ。」

「ふふ、任せろ!ではな、また明日会おう。」

そう言って満足げに手を振りながら帰って行くフェリスを見送ると、千博は空を見上げる。ああ、楽しい。毎日が充実している。今まで生きてきた中で自分がこんなに人生を楽しんでいた時はなかなか無かった。何もわからないまま来てしまった異世界。そんな世界でも自分はこんなにもいきいきしている。空に浮かぶ月を眺めていると不意にそんな事を思っていた。

「……何か不思議だな。もしかしたら俺はこの世界に生まれてくるべきだったのかな………」

月は明るく、優しく千博を照らしだしている。その光に心地よさを感じながら千博は家へと帰るのであった。




翌朝、フェリスは朝から上機嫌だった。それは昨日の夜、食堂からの帰り道で千博を夕食に誘う事に成功したからであった。

「よーし、もうあと5周!行くぞ!」

「「「ええええっ⁈ 」」」

周りからは絶望にも近い声があがる。しかしそんな声にはお構いなしに元気はつらつとしたフェリスはランニングを続ける。

「班長、これで3回目の+5周だぞ……一体何周走るんだ……?」

「何か今日、明らかに絶好調だよな。班長。」

「あれだろ?何か良いことあったんだよ、主にチヒロ関係で。」

「ちっ……余計な事しやがって……チヒロめ……」

フェリスの機嫌が良ければ良い程、兵士達の間でチヒロへの敵対心が芽生えていくのは千博が知る由もなかった。

「ほら、ぶつぶつ言うな!走り終わったらすぐ剣術の練習だからな!」

「「「えええええええっ⁈ 」」」

いつも以上にしごかれる兵士達はいつか千博に復讐してやる、と心に誓い何とかフェリスについていくのであった。

そんな事はつゆ知らず、千博は今日も訓練に取り組んでいた。が、いつもとは違い、ランニングが終わるとグスタフに呼ばれた。

「チヒロ。ちょっと来てくれ。」

「? 何ですか?」

「これを見てくれ。」

そう言ってグスタフが千博の前に差し出したのは何やら金属の破片の様な物だった。しかしそれはただの金属ではなく、青白い光をほのかに放っている。

「………何ですか、これ?変わった金属ですね………」

「お前、これが何か分かるか?」

グッさんに尋ねられるがこんなもの見たことがない。全く見当がつかなかった。何だろう、何か人魂とかがこういう色をしてそうだな。そんな風に考えこんでいるとグッさんが教えてくれた。

「それは昨日お前が壊した盾の破片だ。」

「⁈ い、いや、そんな訳無いですよ。………だって、何でそんな風に光ってるんですか………?」

千博は信じられずに問い直す。しかし、千博も言われてみれば確かにこの破片に見覚えがある様に思えてきた。が、信じられないといった様な顔をしているのは千博だけでなくグスタフも同様だった。

「これな、調べてみたんだけど……その光ってるの、魔力だったんだよ………」

………え?グッさんは今、何て言ったんだ?随分とファンタジーな単語だった気がするんだが。しかも聞き間違いでなければ、まるでそのファンタジーの塊は俺が使ったみたいに聞こえたぞ……?

「いやー、本当に驚かされるな、チヒロには。まさか魔法を使えるなんて………」

「い、いや…使えませんよ?それ本当に俺が関係あるんですか?」

「またまた、そんな謙遜はいらんぞ?道理で強い訳だ。これで納得がいったな。」

「いや、本当に使えませんって。第一魔法って女王直属の騎士しか使う事が許されないんですよね?それなら入ったばかりの俺が使い方を知るわけないじゃないですか………」

千博はフェリスに以前聞いた話を思い出して指摘する。ん?まてよ?女王直属の騎士ってことは近衞兵はみんな使えるって事か?それならグッさんも使えるんじゃ………。

「あ、そう言えば………」

明らかに今気づいたみたいだ。ということはグッさんは使い方を教えてもらってないってことか?

「ところで……グッさんは魔法使えるんですか?」

「ん?ああ、そりゃ使えるさ!確か近衞兵になってちょっと経った時に教えて………」

「ちょっ⁈ それなら俺が魔法使えるわけがないってわかるでしょ⁈ 」

「………ん?あ!確かに……って、ええ⁈ じゃあ何でお前魔法使えんの⁈ 」

「………。」

今気づいたのか!大丈夫か、グッさん………あんた班長だろ……。

自分の班長に不安を持つが口には出さず、不思議そうに千博が魔法を使ったということについて考え込んでいるグスタフを見る。……でもあの様子だと魔法については嘘をついている様には見えないし、グッさんはそんな事しないだろう。ならあの光は何なんだ………?

「だが………お前が魔法を使ったとすると納得がいくんだけどよなぁ。」

千博が訝しんでいるとグスタフは納得いかなそうな顔でそう言った。

「お前昨日、盾壊した後めちゃくちゃ疲れてただろ?たった一発パンチしただけなのに。」

「確かに……凄く疲れましたけど。」

「それだよ。魔力を使うと体力の消耗が激しいんだ。だから動けなくなるくらいに疲れたんだと思うけどな。」

グスタフが自分の意見を述べる。言われてみれば昨日の疲れは訓練した後のいつものそれとは違った。筋肉痛とかじゃなくて身体の内側からどっと疲れる様な感じだった。

「それだけじゃない。お前のあのパンチの威力、あれは盾を壊した時の一度だけだった。あの時俺はお前に本気で殴れって言った。で、その後お前はあのパンチを撃った。つまりあのパンチはお前が意識して撃ったものって事だ。ひょっとしたら集中してる間に魔力を拳に込めたんじゃないか?」

「あ………」

何故だろう、自分は魔法なんか使えるわけがない、そう分かっているのにグッさんの話には思い当たる節が多すぎる。グッさんの言う通り、あの時俺はこれから放つ一撃のためにかなり集中していた。力が漲る感じがした………。

「心当たりがある、って顔してるぞ?………やっぱりそうか。それに、この破片が何よりの証拠だしな。」

「………でも、仮に俺が魔法を使ったんだとしたら何であの時は……」

そう、千博が簡単にグスタフの言うことを信じられないのには他にも理由があった。もし俺が本当に魔法を使ったなら、山賊の長を殴った時何であいつは死ななかった?それにチンピラ貴族達を懲らしめた時もそうだ。あの時も相当の集中をしていたんだ、山賊の長を倒した時なんてかなり本気だったし。集中することで魔法が使えてたならあの時も魔法を発動して、あいつの身体は木っ端微塵になったんじゃ………。

「………うまく力が使えてない感じがした時があったって話か?それも一応仮説がたてれるんだけど……」

「……本当ですか?」

考えていた事とは少し違ったが一応話だけはきいてみる。グスタフは頭を掻きながら少し自信なさげに言った。

「多分……まだ使い方が下手なだけだと思うぞ。お前が自分でも思った以上の力を出せてる時は多分魔力が使えてる。最初はみんな下手だしな。」

「そんな………。もう使える前提ですか………」

千博は何が何だかわからなくなってきていた。一旦グッさんの話を整理しよう。……まず、俺には魔力があるかもしれない。その魔力のおかげで力が異常に強くなった……と。それで、力が発揮できたりできなかったりするのは魔力の使い方が下手だから………。まあ、こんなところか。

でもまだよく分からないところだらけだな。

「えっと……大体は分かりましたけど………。俺、一回山賊と戦ったことがあって、その時も予想以上に力が出せてたんですけど…。それも魔力のせいですかね?」

「そう思うぞ。」

「でもこの前盾が粉々になった時程の威力じゃなかったんですが…。」

「使い方だな。」

「まじですか……。」

えっと……何か一応筋道立った説明になっちゃったな。にわかには信じがたいけど。千博はまだ信じられなかった。が、それも当然だ。この世の中にあなた魔法使えてますよ、と言われてそうですか、とすぐに納得できる人がいる方がおかしい。千博の反応は至って普通だ。だが、この世界では違った。この世界で魔法は別に驚くべき存在ではない。寧ろ何の訓練も無しにフェリスに勝った、驚異的な身体能力を保つ千博の方がよっぽど異質だった。だが、千博の強さの秘密が魔法に有るとすれば、それはすんなり納得のできる話なのだ。だから一向に魔力を信じようとしない千博にグスタフは痺れを切らして言った。

「ああ!ぐだぐだ話しててもしょうがない!ほら、チヒロ。やってみろ!」

「え?やるって何を?」

「魔力に決まってんだろ!やってみたほうが早いわ!俺と同じようにやってみな。」

グスタフはそう言って千博の前に右手を出す。続いて千博も右手を差し出す。

「そしたら右手に力を集めるつもりで集中しろ。で、力が集まってきたと思ったら掌にそれを出してみろ。」

そう言うとグスタフの掌の上に黄色い光の球が現れる。それはフェリスに見せてもらった火球とは少し雰囲気が違い、小刻みに揺れていた。

「どうだ?こういう感じで……」

手本を示し、千博の方を見たグスタフは思わず絶句した。

「う、うわ、何だこれ⁈ グッさん!どうやって止めるんですか⁈ 」

千博の掌の上。そこにはグスタフが出した様な光球は無かった。が、変わりに千博の右手からは止めどなく青白い光が煙の様にあふれていた。

「な、何だそりゃぁ⁈ ちょっ、力抜け、力!」

「は、はい!……………と、止まった?」

「ったく………なんて奴だ……。」

千博の手から出ていた青白い光は消え、一安心するとグスタフは改めて千博の力に驚きを感じた。規格外の魔力だ。これがあいつの強さの秘密という訳か。ようやく納得がいった。が、納得して終わりのグスタフではなかった。驚きを感じると共に、グスタフは千博の可能性に大きな期待を抱いていた。こいつは本当に育て甲斐がある。訓練さえ積めば千博はこの国の主戦力になるだろう。……これからは楽しくなるな。

「……グッさん?どうかしましたか?」

これからについて考えていると千博が声をかけてきた。

「ん、ああ、ちょっと驚いちまってな。けど、これでこれからお前がやる事が決まった。まずは魔力の操作を覚えることだな。よし、早速始めるとするか!」

「わ、分かりました!」

まさか本当に魔法が使えるなんて、と驚く千博だったが、その後すぐに驚きは嬉しさへと変わっていった。魔力を使えばきっと今より強くなれる。そうすれば俺も近衛隊として役に立てるようになれる。みんなを守る力が得られるんだ。そう思うと俄然やる気が出てきた。そして千博はグスタフと魔力操作の練習を始めるのだった。

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