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戦う理由と決意

「本当に良かったのか、チヒロ?」

フェリスが兵舎へ向かう道中で心配そうに尋ねてくる。確かに決断を早まった気がするけど案外後悔はしていなかった。自分の力を活かせて、この国で生きていくにはぴったりの仕事だと思うからだ。ただ、千博の決断を渋らせていたのは『女王の為に“命”をかける』というところだろう。まだ出会って数日のユリア女王の為に自分は命をかけられるのか。今の時点では無理だろう。ユリア女王のことを尊敬に値する人であるとは認めているが、まだその覚悟がなかった。なら今、自分は何の為に戦えば良いのか………。

「………ああ、今俺がこの世界で生きていくには戦う必要があるんだと思う。」

「……だが、別に他の仕事についてでも充分生活はできるんじゃ……」

「確かにそうかもな。」

それは自分も思っていた。実際、自分が何の仕事が貰えるか考えた時、兵士になる事なんて思ってもみなかった。考えても見るとなぜ俺がこの世界に来て、こんな力をもっているのかとても不思議だった。でも、もしこの事に理由があったならどうだ。俺がこの力をもってこの世界へ招かれた理由、それは………

「それでも多分、俺は戦わなきゃいけないんだと思う。」

「………それはお前が異世界から来たからか?」

「それもあるけど………もっとはっきりした根拠は俺の力の方だな。この力が与えられたのにはきっと何か理由があると思うんだ。」

「……そうか………」

フェリスは千博の言い分を聞き終えても納得のいかない様な顔をしていたが、急に千博の方を向いた。

「……どうしたんだ?」

「一つだけ私から言っておくことがある。」

「……何?」

すうっと息を吸い込んで真剣な面持ちでフェリスは言った。

「生半可な決心で戦う事だけは絶対にやめろ。命は一つしか無いんだ。死んだ後じゃ後悔もできないぞ。」

「………っ」

フェリスの言葉は重く千博の心にのしかかった。死の危険。今まで味わったことのない感覚。千博は何も言い返せなかった。

「チヒロ、お前が戦おうとする理由はなんだ?」

フェリスに更に畳み掛けられる。戦う理由。人によって様々だとは思うけど近衛兵団の人達の多くは女王様と国の為に命をかけているんだろう。なら俺は?俺はかけられるのだろうか。いや、かけられるようになれるのだろうか。

「もしお前がこの世界に呼ばれた理由が本当にお前の言う通り戦う事だったとしてもだ。最終的にどうするか決めるのはチヒロなんだ。戦う理由がなければ戦う必要は無いんじゃないか?」

フェリスの言う事はもっともだ。そうだ、理由がないなら他の仕事を探せば良い。ならどうして俺は戦おうとしているんだ?何が俺を戦わせようとしているんだ?戦って、俺は何を求めているんだ?千博はこの世界に来てからの事を考えてみる。ラッセルと山賊を倒した事、クロードさんとバルト宰相を助けた事、ユリア女王と食事して、家をもらった事、フェリスと決闘して、その後仲良くなれた事、ステラを貴族から助けた事………。確かに来てから数日しか経っていないこの世界だけど、日数に見合わない位にたくさんの人と関わったし、みんな俺に良くしてくれた……。みんなの温かさに触れて本当に楽しかった。だから俺はそんなみんなの事が………

「ああ、そっか。」

そこまで考えてやっと気がついた。来てからの日数なんて関係が無かった。俺にとってみんなは………

「大切なんだ。」

「? どういうことだ?」

「いや、だから……俺にとって大切な人達を守りたいっていうのは駄目かな?」

随分とありきたりな理由な気がするけど、今の俺は自分の力をみんなの為に使いたい。

「………出会って間もない人達なのにか?」

「ああ。………例えばさ、俺とフェリスが出会ったのもたった数日前だろ?それでもその数日の中で俺は初めて本気の決闘をしたし、いろんな事を話したし、フェリスとは凄く仲良くなれたと思うんだ。」

少し気恥ずかしかったけど、この世界で今一番俺と一緒にいてくれて、俺を助けてくれたのはフェリスだと思ったから正直にそう言った。

「なっ!……そっ、それはもしかしてお前にとっては私もっ………」

「? ああ、もちろん大切な人だ。」

そう言うとフェリスも気恥ずかしくなったのか顔を真っ赤にして俯いてしまった。

「………い、今のはプロポーズ⁈ お、落ち着け!そんなの受けられる訳ないだろう⁉︎ 私は騎士だぞ⁈ いや、でも………」

「?」

ぶつぶつ呟いているけどフェリスどうしたんだ?そんなに恥ずかしかったのかな。………なんかこっちまで恥ずかしくなってくる………。そう思っていると、フェリスが顔を上げる。

「………ふふ、流石だ。お前の戦う理由は誰も文句のつけようのない固い決心の様だな。」

「………ああ!」

「チヒロ、お前みたいに大切な人を守るために戦おうとする者のことを何ていうか知っているか?」

「え?えと……守護者とか?」

「違うよ。」

否定して、フェリスは真っ直ぐな目で千博に言った。

「そういう者達を人は“騎士”と呼ぶんだ。」

「あ ! ………」

フェリスはそう言って千博に笑いかける。

「近衛兵団に入る資格は充分だな。さあ、もうすぐ着くぞ。覚悟は良いな、チヒロ?」

「もちろんだ!よし、頑張るぞ!」

千博は近づいて来た兵舎を見ていっそう気合を入れる。今日から俺は騎士になるんだ。みんなを守れる様になろう。そう決意してフェリスと千博は兵舎に足を踏み入れた。




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