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動き出す影と千博の決断?

「………おお、中は結構きれいにされてるな………。」

玄関から入っていくとシャンデリアのつるされたホールが広がっていた。一階には食堂や浴場、暖炉のある広間があった。千博はとりあえず寝室を探しに両脇の階段から二階へ上がる。書斎や客室がある中で寝室は廊下の奥にあった。当然の様にベッドはキングサイズ。その横にはクローゼットが置いてある。なんとなく開けてみると洋服が沢山入っていた。

「前の人のかな?……いや、それにしては新しすぎる……。用意してくれたのか………」

もしやと思いさらにその横のタンスの引き出しを開けて見ると何やら布が出てきた。

「何だこれ?沢山あるけど……ハンカチか?」

そう思いぱっと広げてみると違った。

「し、下着まで用意してくれたのかよ………ありがたいけど。」

まさか服とか下着とか女王様が選んだんじゃないだろうな、と勝手に一人で赤面しながらパンツを一枚掴み、適当な着替えを持って浴場に向かった。

「……そんな、風呂までっ……!」

まさかとは思ったが風呂まで用意して貰えていたなんて……。風呂の湯と人情の温かさに感謝しつつ、チヒロは湯船に浸かるのだった。





「……では君は同盟の件は破棄した方が良いと?」

「そんな‼︎ ゼウシアとは外交関係も上手くいっているのに大陸同盟を結ばないと言うのですか⁈ 」

「はい、その方が良いと思います。」

少し広めの書斎と言ったところだろうか、その中で3人の男が話をしていた。1人は椅子に座っており、残りの2人は側に立っていて片方は椅子に座る男の横に、もう1人はその2人と机を挟んで反対側にいる。

「……何故そう思うのですか?別にこの同盟にデメリットは無いように思えますが。」

「そうですね。でも同盟を結ばなければ大きなメリットがあります。」

「………ほう。聞かせてもらえるかな?」

2人に対峙して立っている男は眼鏡を掛けている。背は低めだ。見たところ彼が最年少で椅子に座る男が最年長の様だ。

「同盟の内容は他大陸の侵略時の戦線協力と大陸内での和平ですよね?そんなの必要ありますか?」

眼鏡の少年は静かにそう言った。

「貴様、何を言っている⁈ 他国と協力して国民に平和をもたらすことこそが最重要なのだぞ!」

もう1人の男がくってかかる。整った顔立ちの爽やかな男だ。

「そうですけど……今のこの国はゼウシアって国と比べると発達が遅れてるんですよね?それは経済的な差が元でしょう?あの国は貴族が多いから支援も大きいんですよね。」

「確かにそうだが……それでも同盟が成り立てば我々との貿易も盛んになって技術支援なども………」

「あり得ませんね、それは。」

眼鏡の男は即座に切り捨てる。

「⁈ なぜです?」

「あの国の経済を支えるのは貴族。それは支援をすれば自分達の安全は保障され、政治にも関わることができて彼らに都合が良いからです。同盟を結んでもこの国が彼らに提供できる物は大して無いでしょう。利益がないのに彼らが支援をくれるとは思えません。もっとも、ゼウシアの支配者がよっぽどのお人好しであれば話は別ですがね。」

「………ならどうしろと?」

爽やかな顔の男はその表情を歪めて質問する。

「簡単です。この国の発展のためにはゼウシアをこの国の支配下におけば良いんですよ。」

「何⁈ 貴様……!ゼウシアと戦争をしろと言うのか⁈ 言っただろう!国民に平和な暮らしを………」

「別に戦争までとは言ってませんよ。ゼウシアの中枢だけ叩けば良いんです。」

「暗殺者でも送れと言うのか?」

神妙な顔で尋ねる男を諭す様に眼鏡の男は答える。

「方法は色々ですけど………まずは情報収集からですかね。焦らなくても大丈夫ですよ。まあ、じっくり考えていきましょうよ。」

眼鏡の男が言い終えると座って話を聞いていた年長の男が口を開いた。

「………ふむ、君の意見は良く分かった。使者の件、検討しておく。」

「っ⁈ 陛下!」

「だが一つ質問がある。」

陛下と呼ばれた男はゆっくりと続けた。

「なぜ君はここまで我が国のことを考えてくれるのだ、ヒデト殿。通りすがりの君がどうしてそんなに我が国の手助けをしてくれる?」

陛下がヒデトと呼んだ男は眼鏡を人差し指であげると答えた。

「別に僕の意見は採用しなくてもかまいませんよ。ただ僕は“面白くなりそう”なことを考えただけです。この国の利益と言うより自分の楽しみのためですよ。」

眼鏡の男は薄っすらと笑みを浮かべると2人を後にして部屋から出て行った。




翌朝、再びユリア女王に呼ばれた千博はフェリスと女王の前に座っていた。

「今日呼んだのは君に提案とお願いがあったからだ。」

「お願い?女王様のためなら俺、できる限りのことはしますよ。」

「むっ………!」

隣のフェリスにど突かれた。

「痛っ!何だよ⁈ 」

「ふん」

「?」

何か最近フェリスが冷たくなってきた気がする………。何やら怒っているフェリスを横目にユリア女王の方へ向き直る。

「………ふむ、なるほど。」

「?どうかしました?」

1人で何かに納得しているユリア女王だったが千博が向き直ると話を続けた。

「ふふっ、こちらの話だ。こほん………さて、話を戻すとだな、まず提案と言うのは………チヒロ殿、近衛兵団に入らないか?」

「っ⁈ 女王様⁈ 」

「え?それってフェリスやクロードさんがいる………」

「うむ、そうだ。私直属の兵団だ。正直、君の力には本当に驚いた。これはクロードとも相談して決めたのだが………どうかな?」

「俺が近衛兵団に………」

千博は考えてみた。確かにこの世界に来てからの俺は凄い強い。自分でもこの力を活かすにはそういう方面しか無いと思う。でも、近衛兵団に入るということはこの国の生活を受け入れ、ユリア女王に命を捧げると誓う事になるだろう。つまり、この世界で俺は生きていくことになる。

「しかしユリア様!チヒロはまだこの国に来たばかりで帰る当ても見つかっていないのですよ⁈ 近衛兵になるという事は………命をかけて女王様を守ると誓う事に………」

フェリスが女王様を思いとどまらせようとする。俺の事を気遣ってくれているみたいだ。

「うむ、分かっている。だから次はお願いだ。どうか私の近衛兵となってくれ、チヒロ殿。」

女王は立ち上がり、頭を下げて千博に頼んでくる。

「ちょっ!顔をあげてください!分かりましたからっ!」

「「え?」」

フェリスと女王が同時に声をあげ、千博を見た。

「本当にいいのか………?」

「え……あ……その………」

「そう………だな、やはり嫌だろうな………私の騎士など………」

千博が答えに困っているとユリア女王は悲しそうな顔になって落ち込んでしまう。くそ、見え透いた罠な気がするけど逆らえないっ……。

「そ、そんな事ないですって!是非やらせて下さい!」

ああ、言ってしまった。女の子に弱い自分が憎い。

「本当か?それは良かった!ではすぐにフェリスと兵舎へ向かってくれ。手続きはそこで出来るからな。」

「え、もうですか?そんなに急がなくても………」

「ぐすん、」

「はい、行って参ります!ほらフェリス、行くぞ!」

そう言うと千博はフェリスの手を引いてきっと後ろで笑っているだろう女王様のもとを後にした。

「すまないな、チヒロ殿。しかし私とて一国の女王なのだ。この国に必要な人材を見極める必要がある。君は絶対にこの国に必要となると、そう思ったのだ………」

女王は自分の冷徹さを噛み締めながら、千博の背中を見つめ、国の平和と発展に努めることを誓った。


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