決闘と勝利
「はあっ!！」
「っと！だからやめろって！」
フェリスのレイピアが左頬をかすめる。動きが桁違いに速い。手元にレイピアが戻ったかと思うと既に次の攻撃が繰り出されている。
「くっ！速い‼︎ 」
２撃目は避けきれず右手の両刃剣で受け止める。
「何?! 」
瞬間、この決闘を周りで見ていた兵士達がざわめき、フェリスの動きも止まる。
「…………？」
よく分からないけどチャンスか？そのまま右手でレイピアごとフェリスを薙ぎ払う。フェリスは後ろに飛んで衝撃をうまく流した。すると次は周りから歓声が上がる。
「……？何なんだよ、一体。」
「貴様……、何て馬鹿力だ！」
「はあ⁈ 」
いや、確かに結構本気だったけど別に剣で相手の攻撃を受けて薙ぎ払う何て大した事じゃないよな？
「すげえ！あいつ、両手剣を片手で使ってやがる‼︎ 」
うん？両手剣⁇………そういう事か。どうやら俺が使ってたのは両手剣、つまり両手でもって使用するはずの剣だったのだ。
「貴様やはり並みの修業をつんでいないな！ならばこちらも全力でいかせてもらう‼︎ 」
フェリスは千博に向けて次々と突きを繰り出してくる。その全ては喉、
心臓、肩や足下を正確に狙った、千博を本気で倒そうとした攻撃だった。速すぎて反撃出来ない。かわすのが精一杯だ。
「くそっ！避けるな！ 」
フェリスは攻撃の手を緩めない。その一撃一撃をかわし、防ぎ、何とか持ちこたえる千博だったが次第に体力が限界に近づいてきた。
「はぁ、はぁ、っ、くそっ！」
ぎりぎりの所で攻撃をかわしていたがフェリスのレイピアがついに千博の左肩をとらえる。
「……ぐあっ⁈ 」
「ふん、そろそろ避けるのも辛くなってきた様だな。」
まだまだフェリスの顔に疲れの色は見えない。きっと今まで多くの訓練をつんできたのだろう。本当に無駄がなく隙もない完璧な動きだ。対して千博は全くの戦闘の初心者だ。普通に考えればもう既に三途の川を渡ってしまっていてもおかしくない。こうして今何とか生きているのは今の千博の身体能力が規格外に高くなっているからだった。
「それにしても本当に何者なんだ、あの兄ちゃん。あんなにフェリスの動きが見えている奴は初めてだ！」
強化されているのはパワーだけではなかった。今千博がフェリスの攻撃をかわせているのは動体視力の強化のためでもあった。だがそんなことは知らずに千博は向かってくるフェリスを止める方法を必死に考えていた。技術じゃ絶対に敵う相手ではない。それなら方法は一つだ。
|(パワーで押し切るしかないか…！)
千博は両手剣を本来の持ち方で構えてフェリスのレイピアを両手でうけ、そのまま横に大きく振り距離をとる。
「どうした？もう限界か？」
千博の切羽詰まった状態を見抜いて余裕の笑みをみせるフェリス。
|(くそっ！隙が無さすぎる。何かで隙が作れれば懐に入って動きを止めれそうなんだが…。)
千博が間合いに入ろうとすればフェリスはすぐに距離をとってそれを防いでしまう。一体どうすればいい？
どうすればフェリスから隙をつくって間合いに入れる？千博は考えながら両手剣をしっかりと握りなおした。
|(……そうだ！ちょっと手荒だけどこれを使えば！けど上手くできるか？)
一つだけ思いついた打開策は自分でも驚く程荒いもので、常人では絶対できないものだった。必要なのは手の中の剣と自分の脚力。ぶっつけ本番で成功できるかは分からないが、今の千博にはこれしか思いつかなかった。
「………やるしかないな。」
千博の目がフェリスの顔を鋭く睨む。
「っ⁈ 何をする気だ？ 」
流石に闘いなれている。千博の様子だけから何かを読み取ったのだろう。フェリスは後ろに飛びさらに距離をとった。
|(やっぱそう上手くはいかないか。)
フェリスの反応の良さに感心してはいられない。こちらからも何かしかけなければ…。
「おいおい、何びびってんだよ？やっぱり俺の攻撃が怖いのか？」
見え透いた挑発かもしれないがのってくるか？いや、のってくれ‼︎
「なっ！びびってなどいない‼︎ 貴様また私を愚弄したな！許さんっ‼︎ 」
よし！のった！千博の挑発に怒ったフェリスがレイピアを構えて向かってくる。そして千博は…
「くらえっ！」
持っていた両手剣をフェリス目掛けて投げつけた。
「何⁈ 」
勢い良く回転しながら向かってくる剣に面食らいフェリスの足がとまったが、体勢を崩しながらも投げた剣は当たる寸前の所でレイピアではじかれてしまった。
「ふん、何かと思えばそんな子どもだましの……」
言いかけてフェリスは絶句した。彼女が千博から目を離したのは剣を受ける時のほんの一瞬だった。だがそのほんの一瞬で千博は地を蹴りフェリスの懐に入りこんだのだ。
「悪いな。ちょっと痛いぞ。」
フェリスの左の手首を左手で掴み、体を内側へいれて柔道の様に一本背負い投げをする。
「……ぐっ…あ！」
仰向けに倒れたフェリスにそのまま馬乗りになり、両手を地面に押さえつけてレイピアを奪い投げ捨てる。一瞬の出来事だった。倒されたままフェリスは少しの間茫然としていたがすぐに正気になって暴れ出す。
「ぐっ！は、離せっ！私はまだ…」
「おい、審判！もういいだろ？ここでとめてくれ！」
野次馬の兵士達と一緒にあっけにとられていた初めの合図をした兵士にうったえる。それに気付いて審判の兵が止めにはいった。
「そ、そこまで！フェリス、もういいだろ？お前の負けだ。さあ、兄ちゃんも降りてやってくれ。」
「あ、ああ。ごめん…。」
そう言って手を離し降りてやるとフェリスはすぐに立ち上がってどこかへ走って行ってしまった。周りからどっと歓声があがる。
「あ！ちょっと！待てって！」
呼び止めようとしたが歓声にもみけされて声は届かない。そしていつの間にか周りを兵士に囲まれてしまった。周りのみんなに褒められながらも千博はフェリスのことが気になっていた。
