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手を繋いで、仲睦まじく二人はのんびりと歩く。
流星群のピークは過ぎ、ポツリ、ポツリと空を流れては消えてゆく。
宿に戻る帰り道、そういえばとリュクレスは顔を上げた。
「ヴィルヘルム様、言い伝えってなんだったんですか?」
リュクレスを見返す、その蜜のように甘い眼差しは夜闇の中でも鮮やかだ。
受け止めて、リュクレスの鼓動が高鳴る。
「流れ星は別名、婚ひ星と言うそうですよ」
「婚ひ星…ですか?」
「『婚ひ』とは『夜這い』、夜、恋人の元へ忍んで通うことですが、『求婚』という意味も持っています。そして」
ヴィルヘルムは珍しいほど嬉しそうに微笑んだ。
「神の落とす星の下で誓う愛は二世に渡って結ばれるそうです。…だから、これは。生涯、そしてその先さえも、君と共にありたいと、願ってしまった私の覚悟であり、願掛けです」
切ない程の一途な想いに、リュクレスは言葉を失い、じっとヴィルヘルムの瞳を見つめた。
優しく微笑みかける灰色の瞳の奥に、静かに灯る激情を見る。
手の温もりが、熱い。
じんと、心の奥が痺れたように震えた。
一方通行ではない。
それは与えられるだけのものではなくて、リュクレスの中にもある熱だ。
藍緑の瞳が真っ直ぐに、男を見つめ返す。
「その覚悟は、私も一緒です」
掠れた言葉とともに、リュクレスはその身体に体当たりするように抱きついた。
揺らぎもせずに、男は娘を抱きとめる。
ただ、彼を幸せにしたい。一緒に幸せになりたいと願う。
好きという言葉では足りない。
このもどかしいまでの感情を愛と言うんだろう。
照れも、負い目も吹き飛んだ。ただ、この想いを音にして、言葉にして伝えたかった。
「…愛しています。ずっと、ずっと傍にいます。一緒に幸せになりましょう。今よりも、もっと。」
熱い熱をもって。
優しい抱擁を二人で。
温かい感情に笑い合いながら。
甘やかに誓い合う恋人たちの上に、星は降り続ける。
「星祭り」求婚編はこれにて完結いたしました。共にいられるように、狼さんは自分の出来る最大限の努力で、娘を守るでしょう。身分違いの恋に戸惑いながらも、娘はそれでも真っ直ぐに、狼を愛することでしょう。
己の思いを素直に口にして、すれ違いや誤解で悲しい思いをすることなく、お互いを想い合って幸せになるそんな物語なっていればいいな、と思います。




