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地平の輪郭に沿って光の線が走った。


その、次の瞬間。

昇り来る太陽が顔を出した。


閃光が夜を切り裂き、空に七色の色彩が撒き散らされる。

天球儀がからりと反転するように、星空は抜けるような蒼穹に変化した。

風はなく、いつもに比べれば些か寒さは和らいで感じる。

それでも、此処は氷上の居城スヴェライエ。

耳が痛くなるような冷たい空気がその場を覆っていた。


だが、そんな寒さも恋人達にとっては互いの手を取る理由になるのだから、それほど悪いものではないのかもしれない。仲良く手を繋ぎ、微笑み合うのは、白い外套に身を包んだ娘と黒い外套の男だった。

地面に落ちる二つの影は重なるように近づいては少しだけ距離が離れ、けれど、決して別れることがない。

先を行くのは、黒髪の娘の方だ。襟と袖口にファーの付いた可愛らしい外套は彼女にとても良く似合っていた。胸元のリボンに付いた兎の尻尾のような玉飾りが、歩く動きに合わせて踊るように揺れる。それは彼女の心を表すかのように軽やかだ。

そして、娘に手を引かれる男もまた、その容貌を蕩けさせていた。庭の散歩に出たはずなのに、その視線はひたすら前を行く恋人へと向けられている。

余りにも熱心な視線に、娘も気がついたのだろう。振り返ると首を傾げた。


「…ヴィルヘルム様?もしかして寝癖でもついていますか?」


繋いでいない方の手を後頭部へと触れさせながら、白い外套の娘、リュクレスは情けない顔で尋ねた。

名を呼ばれた黒衣の男は、ふんわりと微笑みながら首を振る。


「いいえ?」


「……ええ、と」


ではなぜ、こんなにも、まじまじ見られているんだろう?

娘の顔には、そんな思いがありありと浮かんでいる。それが、男には可愛くて仕方がないのか、更に相好は崩れた。

秀麗な面立ち故にだらしなくは感じられないものの、その表情は「甘い」の一言に尽きる。

そんなものを余すことなく向けられて、娘は寒さなど忘れたかのように全身を火照らせた。


「お、お庭っ、見ましょうっ」


気恥ずかしさを誤魔化すように、慌てて男の手を引く。

華奢な手が、強引さとは無縁の柔らかさで男を誘うから。


「ええ。案内、楽しみにしています」


微笑みを零した彼は、繋がれた手を優しく握り返し、散歩を再開させた。








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