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蒲公英と冬狼  作者: 雨宮とうり(旧雨宮うり)
一部  恩返し
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「…寝ちゃいましたか」

すよすよと、可愛い寝息が聞こえる。

予想よりも狼狽し、怯えてしまった少女を落ち着かせるために寝たふりをしたが、どうやらその行動は正解だったようだ。ゆっくりとだが、平静を取り戻し、ついには眠ってしまったようだから。

ヴィルヘルムの胸に頭を預けて眠る、その寝顔はあどけない。

腕の中に閉じ込めたときには、あれほど怯えていたのに、体温に安心して寝入ってしまうあたり、やはり子供のようだ。

少女を起こさない様に、そっとベッドから降り、紗の中から出る。

扉の前に立つ従者を目で促し、ソファに座ると、側までやって来たソルを見た。

「何とも言い難い顔だな」

「…そう、ですか?」

「自分ではわからないか?まあいいが。安心しろ、手は出してない。添い寝してただけだ」

「はあ…」

それは安心していいものなのか…

やはり、何とも言いようがなく、ソルはそこからベッドの方を見る。紗に隠れた少女は姿すら確認できない。

「泣かせたんじゃないでしょうね?」

「いや?泣かせそうにはなったが、泣いてはいなかったぞ」

「泣かせそうになってるんじゃないですか。この似非紳士」

久々に聞くソルの暴言に、ヴィルヘルムは少し驚いて、声を漏らして笑う。

「確かに少し怖がらせたな。…もうしないよ。許せ」

ソルの睨みをサラリとあしらい、

「流石に、俺でもあの子を襲うのは罪悪感を覚えるからな。囮の協力だけで十分だ。閨の偽装お前に任せる」

真面目な顔で、ヴィルヘルムが告げれば、仕事が増えるだろうに、ソルは逆にほっとした様子で頷いた。

「承知しました」

まるであれだな。

何となく、ヴィルヘルムは想像し可笑しくなる。不審な笑みを、ソルが訝しめば、主は笑いを堪えるように言う。

「まるで、お前はリュクレスの兄の様だな」

「兄…ですか」

肉親のいないソルには、近親者というものがわからない。首を傾げる。

「ああ、大切な妹を一生懸命守ろうとするお兄ちゃんって感じだ」

「大切な妹…」

守りたいとは、思った。どういう感情なのかはわからなかったが、これは庇護欲か。

「慈しみたい、大切に、優しくしたい。辛い目に遭わない様にどうにかしてやりたい」

一言、一言、確認するように、ヴィルヘルムが言葉にする。

ソルの中のおぼろげな感情が形を作ってゆく。

「守ってやりたい、笑っていてほしい。…違うか?」

その通りだと、言葉にすることは出来なかった。

優しい言葉を並べるのに、ヴィルヘルムの瞳は冷静に、ソルを見つめている。

確認をしているのだろう。

ヴィルヘルムの命令を優先するのか、リュクレスを守りたいと望む自分の気持ちを優先するのか。

相変わらず、こういう時にはどうしろと命令しないのだ、この男は。

自分で選んで、自分で覚悟させる。

「…それでも、俺は貴方に従いますよ。主」

ヴィルヘルムが王を主と決めているように、ソルはヴィルヘルムを主と決めた。その覚悟は、命を懸けたもので、容易く翻るものではない。

あの子を守りたいと思うのは自分でも残っていると思わなかった良心で。

主への忠誠は命そのものだから比べようがない。…主の命には逆らえない。

「そうか」

淡々と、ヴィルヘルムは返した。そして、少しだけ穏やかに笑う。

「それならば…命令に反しない範囲で、あの子を大切にしてやれ。文句は言わん。一人くらい、べたべたに甘やかしてやる者が居てもいいだろう」

「私が、ですか」

「他に誰がいる?俺は無理だと思うぞ?虐めたくなるからな」

「…でしょうね」

「お前は、甘やかそうと思わなくても、甘やかしそうだからな。そのままでもいいような気もするが」

「そんなことは…」

ない、とは言えない。自分の行動に身に覚えがありすぎる。

リュクレスを虐めてにやりとするよりも、無邪気に笑ってくれる方がいい。

「……わかりました。この屋敷に居る限りは、私が守ります」

「そうしろ」

ヴィルヘルムは珍しく作り物でない笑顔を浮かべている。

彼にとっても、リュクレスは可愛いのだろう。

孫を大切にする爺みたいな行動だなと思い、その可笑しな想像にソルもつい笑ってしまった。






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