表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法と剣  作者: 御堂夜杏
5/5

 この話には魔法があります。この話では戦争しています。この話は魔法を魔法を使い、戦争を生き抜く、一人の女性のお話です。


「私が行こう」

 アントス国とリトス国の間に広々と広がるリベルレンドの草原のアントス国側に入ったところで一瞬の空間転移により何十もの敵兵に四方八方囲まれ、どうしようにもならない状態の中、テアは自然な物言いで言った。

「私がそちらの捕虜となろう。代わりに他のみんなの命は助けてくれないか?」

 媚びるようでもなく、悔しながらでもなく、信頼した仲間に何か言伝を頼むかのように言う姿は、少なからずともアントス国の兵士の半数以上を驚かせた。

「テア様何を!? 捕虜なら私が!!」

リトをはじめリトス国の面々もテアの言い出したことに驚き、リトを筆頭に私が、俺が、と言いだした。

「ただの兵士であるみんなでは向こうに失礼だ。ここは五貴石の私が行くからこそ捕虜としての意味がある」

「!! 貴公もしや……」

 テアの言葉に敵兵の一人が何かに気付いたようだ。

「ああ、私の名はテア・オブシディアン。リトス国が誇る五貴石が最後の一石」

 フードを取りながら言う。アントス国の者たちにどよめきが走る。

「もう一度お願いしたい。我が身をそちらに差し出す代わりに、他の者は見逃してもらえないだろうか」

 アントス国の兵に迷いが生まれる。暫しの間沈黙が支配するが、一瞬の間に巻き起こった旋風と一つの声によってそれは破られる。

「よかろう」

 遠くから放たれた声は、しかしはっきりと鋭くテア達の耳に届いた。するとアントス国の兵が声に反応するかのように陣が解かれ一本の道が現れる。その道を歩いて一人の身目麗しい女性がテアの元にやって来た。

「そなたがグルク老の言っておった五貴石だな。黒曜石の名とそれのごとき黒髪を持つ魔闘士」

「あなたは……?」

「我が名はシュディー、シュディー・オーキッド。アントス国が誇る三麗華が一人、魔導士を統べる者だ」

 一つに束ねられた長い金髪を揺らし答える。その美しさはテアの清楚さとは違い妖艶さを含んでいる。まさに〝蘭〟の名を持つがふさわしい容姿。

「我が名の元にそなたに誓おう。そなたの身を我らが預かる代わりに他の者の命は保証すると。……少しでもグルク老とグラエ坊の借りを返さんとな」

「……貸した覚えはない」

 苦笑いをしながら、シュディーの指示により近づいてきた兵士に杖と剣を渡す。懐に仕込んである短剣も取り出して渡した時、

「テア様!!」

 テアが行ってしまうことに我慢できなくなったリトが後ろからテアに抱きつく。

「……リト」

 ちょっと困ったように、でも笑いながらリトの頭を優しくなでる。いくら大人ぶっていてもリトはまだまだ幼い少女で、テアはリトの育ての親である。子供が親に甘えるのは当然のこと。

「大丈夫、すぐ戻ってくるよ。殺されやしないだろうし、一昔前までのようにひどい拷問なんてされないよ。ね、いい子だから」

 わかってくれたのか、それともどうしようもないことだと悟ってくれたのか、リトの腕の力が緩む。テアはそれをそっと外し、リトの後ろに控えている、リリシアに託す。

「リトをお願い。あと、無理に私を取り戻そうなんて馬鹿なこと考えないでほしいと王に進言を。頼んだよ、リリシア」

 リトをテアの代わりに抱きしめてあげたリリシアは心配そうな、不安そうな顔をしながらも、はい、と頷いてくれた。

「無茶しないでね。……必ず、生きて戻る。私にはまだやらなければならないことがあるから」

 テアはそう言葉を残し、シュディー率いるアントス国の兵士らと共に行ってしまった。空間転移の魔法だからそれはいとも簡単に。テアの消えた後、声を上げ泣き始めたリトの姿は、普段の大人に交じっても違和感のない大人っぽさから一変し、年相応に見えた。



「良き部下に恵まれているな」

 そこはもうアントス国の領地内にある野営地の一つ。テントが多く張られ、人がたくさんいることから主要な野営地の一つなのだろう。簡単ではあるが、手は後ろ手に縛られている。しかし随分自由が利いているとテアは思う。剣や杖は取り上げられているが、やろうと思えば詠唱を唱えることも可能なのに、言葉を封じられるどころか猿轡さえ噛まされていない。

「あの子は特別。孤児になりそうだったところを私が引き取り育てた。……兵士にするつもりは毛頭もなかったが、時代がそうさせなかった」

「……その気持ち分からなくない」

 シュディーはテアの半歩前を歩き、周りを囲むようにし、アントス国の兵が歩いている。

「私をどこに?」

 今まで黙って連れてこられていたが流石に不安になってきて質問した。普通捕虜相手に敵兵はまともに相手をしてくれないものだがシュディーならしてくれるだろうと思ったこともある。

「現在この地に視察に来ている、我らがアントス国王 ジグール様と謁見してもらう」

 アントス国の若き賢王 ジグール。わずか二十三歳にして王位を継ぎ、当時劣勢だったアントス国をたぐいまれなき才覚で一時期優勢にし、現在も均衡状態を保っている。まさに賢王の名が相応しき王である。

 また、リトス国の老王 ウェールンと違い若いこともあってか城から出て、視察と称し各地の野営地を回ることも多いと聞く。

 歩いて行くうちに進む先にひときわ大きいテントが見えてきた。どうやらあそこにいるらしい。周りに張られている守りの結界もほかのテントに比べ厳重に張られているのがテアの目には映った。

(いつか、会ってみたいと思っていたが……今とは)

 自分とそう歳が変わらないらしいことや、賢王と称され、魔闘士を先に戦場に送り出し優勢を我がものにしていたリトス国からその座を退かせた王と一度は会ってみたいと思っていたこともあり、緊張の反面嬉しさも無きにしも非ずである。

 テントの前に来ると見知った顔と遭遇した。

「! お前は、テア・オブシディアン!?」

「……あの時の」

 そこにいたのは以前の前線での戦いでのときに魔闘士として参戦していたが、魔法がろくに使えないということでテアに戦線から離脱させられたグラエ・マロウその人である。

「よかった、無事だったか」

「な!!?」

 テアの意外な言葉にグラエは言葉を失くした。

「まったく詠唱しないで飛ばしてしまったから、無事仲間たちの元に戻れたか心配だったが、要らぬ心配だったようだな」

 後ろ手を縛られながら、笑顔で言われついカッとしてしまう。

「!! ……敵の情けは不要だ! あの時殺された方が……」

「ほう……?」

 しかしグラエの怒鳴り声はテントの中からの声によって収められた。

 グラエは一瞬固まったが、ぎこちなく跪く。シュディーや他の周りにいた兵士たちも己の手を止め跪いた。テアは一番近くにいたシュディーに特に何もされなかったので、そのまま立って、テントから出てくる人を待った。

「グラエ、お前は死んでいた方がよかったと言うつもりだったのか? それは残念だな。その時死んでいたらお前は俺様の護衛という素晴らしい役目を与えられるということは無かった。……ああ、もしかして俺の護衛をしたくなかったからそんなこと……」

 どうやらグラエはあの後、王の護衛という役目を与えられ、ていよく前線から外されていたようだ。

「違います! ていうかそこまで言って無いじゃないですか!」

 テントから出てきた男は想像以上に王らしからぬ性格をしているようだ。その身を包む服装はあまり豪華ともいえないが逆にその方がしっくりするという不思議な威厳を持っている。ウェールンのような〝君主〟というイメージは見られない。しかし彼の者こそアントス国国王で、賢王と名高いジグール・シュロ・パンパスグラスである。

「ん、そうだったか?」

 グラエの狼狽しているのをみてニヤニヤと悪戯が成功した時のような笑いを浮かべているその姿もまた王らしからない。テアはついポカンとその様子を眺めてしまう。

「陛下、他国の者がいるのです。グラエ坊をからかうのはまた今度にしてもらえないでしょうか」

 その場にいるジグールの次の権力者であろうシュディーがたしなめる。

「おお、つい調子に乗ってしまった。すまん、すまん」

 そう言うが早いが真剣な顔つきになり、テアと視線を合わせてきた。

「すまないな、見苦しいところを見せてしまった。我が名はジグール・シュロ・パンパスグラス。……お前がリトス国の五貴石の最後の一人、いや一石と呼ぶべきか。最後の一石のテア・オブシディアンか。……なるほど、良い目をしている。噂の通りに美しいな」

 テアを値踏みするかのように下からじっくりと眺め、最後にはその漆黒の瞳を見つめる。テアも目を逸らすことなくジグールを見据える。

「捕まえたと聞いたが、いったいどうした? 戦った後のようには見受けられないが」

 視線をシュディーに移し、聞いた。シュディーは立ち上がり、テアを確保するまでの経緯を簡単に説明した。


「……というわけでオブシディアンを確保するに至りました」

 シュディーからの報告をジグールはふうん、と頷きまたテアを見る。

「『五貴石の私が行くからこそ捕虜としての意味がある』か。……なかなか、いやしかし理にかなっている。賢いのだな」

「……賢いといわれるほどのものではありません」

「まあまあ、謙遜しなくてもいいぞ。そうだ、お前には礼を言いたいと思っていたのだ。感謝する」

 どこからか持ってこられた簡易椅子に座り腕を組んでいるその姿は王というより小隊の隊長の方が似合っていそうだ。

「アントス国国王に礼を言われる覚えはないのですが」

「白々しい。ほら、このグラエと三麗華のグルクを助けてくれたそうじゃないか」

 後ろに控えるグラエを指さしながら言う。テアはグラエに視線を向けるがすぐジグールの方へと戻した。

「助けたつもりはありません。だから礼を言われることもないです」

「先ほどグラエを心配していたと言っていなかったか?」

 苦笑いを浮かべ返す。

「あれは……。その者は魔闘士ながらろくに魔法も使えないやつです。そんな魔闘士は戦場に立つ資格は無いも同然。つまり殺す価値すらないです。心配だったと言ったのは変なところに飛んで死なれたら私がイヤだと思ったからです」

「では、グルクは? 止めを刺せたのだろう? それに死んだ兵士を清めてくれたらしいじゃないか。それから一週間の休戦期間もお前がそちらの王に進言したのだろう?」

「あの場での戦いはすでに終わっていました。それにグルク殿に重傷を負わせたのは何よりも私自身です。殺したと確信していました。しかし生きていた。それはグルク殿の生命力が高く、しぶとかった、ただそれだけです。止めを刺さなくてもその後しばらくは戦力にならないと踏みました」

 答えにくいことをこうも沢山質問してくれたものだ、と内心ジグールを恨めしく思いながらも、一つずつ答えてゆく。ジグールは目を閉じ頷きながら聞いている。

「死した兵士たちを清めたことは、死者には敵も味方もないからです。同じヒトとして、そうしたいと……、いえ、ただの罪滅ぼしです」

 最後はため息をつき、瞼を閉じながら答えた。次の質問の答えに行くのに少し間があったがジグールは黙って待っていた。

「最後の一週間の休戦期間についての王への進言ですが、……丁度あの戦いの直前に五貴石のセレティア・マイカが亡くなったのです。私が彼女への弔いをしてやりたく、申し出たものです」

 目を開け、はっきりと見つめながら言い切った。ジグールも瞼をあけテアを臨む。その言葉の真意を確かめるように。テアも見つめられて何か見透かされている気持ちになったが、それでも目を離すことはしなかった。その場に沈黙が訪れる。

「ははは! なかなか変わったやつだ、面白い。二人で話したいが構わんか?」

 その沈黙を破ったのはジグールの爆笑。いきなりの事にテアも目を見開いた。そして呆然としながら、

「……はあ、光栄です」

と答えた。するとジグールも間髪置かず、

「ではこちらへ」

と、嬉しそうに言うとサッサと椅子から立ち上がり、率先してテントの中に入ってしまった。

 いきなりの展開にテアだけでなくシュディーをはじめとするアントス国兵士もついていけないようで、みな呆然としていた。

 テアは本当に一人で入っていいのか正直迷い、シュディーに対し助けを求む視線を送る。

「あー、驚いたと思うがあれがあの方の素なのだ。好奇心に対し忠実なお方だ。こちらからもお願いする、王と話しをしてやってくれ」

「いいのか? 王と二人になって」

 もし自国の王ウェールンが敵国の人間、それも強い力を持つ者と二人きりになりたいと言っても、テアは止めるかもしれない。暗殺される可能性があるから。

「大丈夫だ。このテントには私自ら封術術を施してある。言霊を唱えられても、魔法が発動することはないようにしてあるし、手かせはそのままだ。それに中の机の端と端に座れば結構な距離がある。それになにかあればすぐにわかる仕組みにもなっている」

 だからいいと言外に言われ。

「結構気まぐれな方なんだ。そして長々と続いている戦争に退屈し、飽き飽きしている。そんなところに敵兵であるオブシディアン殿のような方が捕虜という立場だがやってきた。話ができる場ができて嬉しいのだと思う」

 はあ、と曖昧に頷き、シュディーに手伝われテントの中に入る。テントの出入り口の幕が下ろされると本当に二人きりになった。身には封術術の重苦しい感触がまとわりつく。

「手の拘束が辛いだろうが、まあ楽にしてくれ」

 テアは近くの椅子に座った。机を挟んだ目の前にはジグール王が座っている。すこぶる機嫌がいいようで、ニコニコしている。

「……楽しそうですね」

「ああ、楽しいぞ。今まで敵兵とゆっくり二人きりで話す機会も無かったしな。しかもその相手が幹部級となるとワクワクする。それにお前宛に伝言を預かっているしな。こうして伝えられる機会を得られて何よりだ」

「伝言?」

 テアが聞き返すとジグールのニコニコしていた顔は一変真面目な顔になる。

「時にテア、お前と同じ五貴石であった〝グレイ・ジャスパー〟の最期はどのように語られている?」

 テアの表情が固まる。いきなりのことに頭が付いて行かない。言葉が出なくなる。

 それでもジグールは待った。テアが喋り出すまで。

「グレイ、は……国の国境線で、敵と交戦。……味方をかばって致命傷を受け、死亡、しました」

 まだ混乱しながらもテアはどうにか答えた。背筋に嫌な汗が流れる。

「そうか……その他には? 特にないか?」

「他には、って……」

 首を傾げるテアに、ジグールはフム、と頷く。

「あの、グレイがなにか?」

 一人で考えているジグールにテアは一番気になっていることを聞く。ジグールは話し始めた。

「実はな、その遭遇したという敵兵は我の隊のことだ。正確に言えば野営地から野営地の移動中だった。その時に多少話す機会があった」

 頭の中を渦巻いていた疑問が少し晴れる。グレイの名を知っているということはそう疑問に思わなかった。

 生前グレイは敵兵に〝双剣のグレイ〟〝碧玉の悪魔〟と名を轟かし、五貴石の中では一番名を上げていた。しかしまさか敵国の王と会っていたというのは驚いた。

「グレイは、何と?」

 テアは半ば無意識に聞いていた。知りたかった、グレイの死について。

「聞いてくれるか」

 ジグール王はテアの眼差しに応え、静かに語り始めた。



テア捕虜になる


これから一気に話が動いていく…と思います。

起承転結でいえば転です。

色々テアが知らなかったことが明るみに出ます。

とはいえ本文に伏線として書けていないのは私の文章力の無さです。

この話は色々書きたくても書けてないことが多くてその所がもやもやしてます。

ひとまず完結させた暁には書きたいこと書いていきたいと思います。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ