この時期に転校生?
この時期に転校生……?
中学二年の二月のことだった。
クラス中がざわめきたった。
後、二カ月もすれば、三年生へと進級すると言うこの時期に、男子生徒が転校して来た。
担任教師の隣に立つその姿は、中学生離れした体格で、小柄な担任を見下ろすほどだった。
あちらこちらで女子たちが、目配せをしたり、小声で何か言い合ったりしている。
ピンと伸びた背筋と、緊張してはいるが端正に整った顔。
切りそろえられた短髪がその彫りの深い顔によく似合っていた。
いわゆるスポーツ刈りがここまで似合っているとは、顔全体のバランスや、頭の形に至るまで、整っている証拠のように思えた。
教室の窓際で一番後ろの席に座っていたわたしは、最初に彼を見た瞬間思った。
彼は……
選ばれた人間だと。
彼の肩から漲るオーラと言うか、隙が無いと言うか、凡人が持ちあわすことのない何かを彼は持っていた。
「青木光輝君は、他県からの転校だ。野球部なら知っていると思うが、あの有名なT学園のピッチャーだったらしい。野球部顧問の吉沢先生は朝から興奮しっぱなしだ。もう、朝からプロ野球のドラフト会議で一番くじ引いたみたいな、はしゃぎようだったんだぞ」
担任のそんな冗談に、まるでマウンドの上に立っているような緊張した面持ちだった青木光輝が、照れた顔でニコリと微笑みながら
「先生。それ、かなり大げさです。プロなんかと比べられたら恥ずかしくて明日から学校に来られなくなりますよ」
多分……
この彼の笑った顔に、クラスの女子十七人中八人はノックアウトされたはず。
緊張している時の顔と、笑った時の顔のギャップがあり過ぎで、一瞬で、女子のハートを鷲掴みにしたように思えた。秒殺ってこと?
わたしもそれの例外ではなく、彼の姿に釘付けになった。
「そんなことになったら、吉沢先生が泣くだろうな。まあ、そう言うことだから、みんな仲良くしてやってくれよ」
担任がそう締めくくり、光輝に一番後ろの席に着くよう指示した。
光輝が座る席にクラス中の視線が集中した。
三十七人と言う中途半端な人数。
横六列に縦六列。
わたしの席だけが、飛び出た状態。
そして、三十八人目の光輝がわたしの隣の席に着いた。
席に着くなり、隣に座るわたしに二コリと笑い掛けて来た。
「なんか、二人だけ飛び出た席だね」
「うん。半端もんね」
いきなり話し掛けられて、本当はドキドキしていたが、できるだけ平静さを装った。
「今まで一人でさびしかったでしょ?」
「そうでもないよ」
「まっこれからよろしくね」
「うん。分からないことあったら聞いて」
さっき以上に平静さを向上させてそう呟いた。