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第2章 タカシの夢はお笑い芸人? (その62)

「そりゃあ迷ったさ・・・。“どうしたらいい?”って自分に何度も訊いてたんだ。

でも、そうしてるだけじゃあ何にも解決しない。お爺ちゃんから『家のことは任せるから』って言われていたのに・・・。そう思ってな。

で、思い切って階段を駆け上がったんだ。

そしたら、階段の上から雨と風が・・・。」

父親は、当時の光景を思い出すのか、顔の前で両掌を細かく振ってみせる。


「えっ! 家の中なのに?」

そうした経験がない孝には父親の話に実感が伴わない。


「ああ・・・、ほら、階段を上がりきったところに明り採りのための窓があるだろ?」

「う、うん・・・。」

「その窓にこれくらいの木の枝が突き刺さってて・・・。」

父親は両手を使ってその木の枝の太さを示しながら言う。直径20センチぐらいだろうか。


「うっ、うっそう~!」

孝は思わずそう言ってしまう。

別に、父親が嘘を言っているとは思っていないのだが、驚きを示す一種の感嘆語として学校の友達の間で使う言葉がそのまま出てしまったのだ。


「庭に古い柿の木があるだろ? その枝が強い風で折れたんだな。で、それが雨戸を突き破ってガラス窓を割ったところで止まってたんだ。

で、その割れた窓ガラスの間から、雨と風が吹き込んできてて・・・。」

「それで、どうしたの?」

「どうもこうも・・・。

雨に濡れながらも何とか階段を昇り切って、その原因となった枝を取り除こうとしたんだが、押しても引いてもびくともしないんだ。

まあ、お父さんがもう少し大きかったら何とかできたのかもしれんが、当時のお父さんはクラスで一番のチビだったからな。背丈も足らんし、腕力もなかった。

で、気がついたら、足の裏が痛いんだ。」

「ん? 足の裏?」

「階段を昇った際に、割れて散らばった窓ガラスの破片を踏んだんだろうな。

足の裏をみたら、靴下に血が滲み出していた。」

「えっ! そ、それは痛い・・・。」


「それでも、そのときはそんなに深刻に考えなかった。そんなことより、雨が吹き込んでくるこの状態を一刻でも早く止めなければ・・・。そう思ってな。」

「治療しなかったの?」

「そ、そんなことを考えてる余裕はなかった。痛みはあったけれど、それ以上に『この枝を何とかしなければ・・・』っていう悲壮感のようなものの方が強かったんだ。」

父親は、どうしてかそこで軽く唇を噛んだ。

もちろん、孝にはその理由が分からない。



(つづく)




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