第2章 タカシの夢はお笑い芸人? (その61)
「孝に笑われるかも知れんが、お父さん、子供の頃は雷が大嫌いでな。」
父親が苦笑する。
「へぇ~・・・、そうだったんだ・・・。」
孝は意外と受け止める。今の父親からは到底想像が出来ない。
「で、まもなく、ゴロゴロゴロって、その雷が鳴り始めたんだ。」
「うわぁ~、そりゃ大変・・・。」
「で、どうしたと思う?」
「えっ! お父さんが? う~ん・・・、布団にもぐりこんだ?」
「いやいや、2階に上がる勇気もなかった。」
「じゃあ・・・。」
「このテーブルの下に潜り込んだ。いや、へたり込んだって言うほうが正しいだろう。
で、両手で耳を塞いで・・・。こうだな。」
父親は、実際に自分の両耳を塞いで見せる。
「それなのに、両目を瞑っているのに、あの稲光ってのは見えるんだ。」
「ええっ! そりゃあ、嘘だ!」
孝は大袈裟な言い方だと思う。両目を瞑っていたら、見える訳がないからだ。
「いや、それが見えるんだなぁ~。怖いと思うから余計になんだろうが・・・。
で、こうなると分かってれば、ひとりで留守番するなんてことしないで、お爺ちゃんに付いて行けば良かった・・・って後悔をしたんだ。
でも、まさか、こんな嵐になるとはまったく思ってなかったからな。つまりは、お爺ちゃんの言葉を信じてなかった。きっと、その罰が当たったんだって、そう思うしかなかったんだ。」
「・・・・・・。」
「お父さんがそう後悔をしたからといって、その嵐が収まることはなかった。
それからも、ますます雨は強くなるし、風もますます強くなって・・・。おまけに、近くに何発も雷が落ち始めたんだ。
バシッ!って音がしたかと思ったら、その直後にドドンッ! 地響きが床を伝って身体に届くんだ。それが何発も続いたんだ。
お父さん、正直、生きた心地がしなかった。ひたすら、テーブルの足を握り締めて震えていた。」
「・・・・・・。」
「そしたらな、突然、今度は2階でガラスが割れる音がしたんだ。」
「えっ!」
「お父さん、家が壊れるんじゃないかって思った。それほど衝撃的な音だった。」
「で、どうしたの?」
孝はそう訊く。
(つづく)