第2章 タカシの夢はお笑い芸人? (その59)
「そ、そんなこと、訊ける雰囲気じゃあなかった。お婆ちゃんも、お爺ちゃんの様子を見て、その理由は分からなかったみたいだけど、兎にも角にも『ただ事じゃあない』ってのを感じたんだろうな。それこそ、目が尋常じゃあなかった。」
父親は当時を思い出しているのだろう、遠い目をして言ってくる。
「そ、それで、どうなったの?」
孝は、そこで何か不思議なことが起きたに違いないと思った。そう、祖父の超能力を示す何かがだ。
「どうなったって・・・、とうもなりゃしなかった。ただ、お爺ちゃんの指示で、ビニールハウスの上からロープを掛けてその両端を杭で地面に固定した。そして、さらには、土嚢をビニールハウスの周囲を囲うように2段ずつ重ねていったんだ。
つまりは、ビニールハウスを補強したって感じだった。
そうだなぁ~、その作業が終わったのはもう夜の9時を回っていた。」
「・・・・・・。」
孝は、「どうしてそんなことをしたの?」と訊きたいのをじっと我慢する。
今は訊くべきではないと思ったからだ。
「で、作業が終わって帰るとき、お爺ちゃんに『こっちの車に乗れ』って言われて、それでお父さん、結局はお爺ちゃんが運転する軽トラックに乗って帰ったんだ。
その途中、お爺ちゃんがお父さんに言ったんだ。『今晩、お前一人で留守番が出来るよな』って。」
「ん? ひとりで留守番って?」
孝は、それが何を意味していたのかが分からない。
「『お前も来年は中学校だ。しかも男の子だ。出来るよな。家のことは任せるからな。頼むぞ』って言われて・・・。
だから、ようやくそこで『どうしてなの?』って訊いたんだ。
するとな、お爺ちゃん、『明日の夜明け前に嵐が来るから』って・・・。だから、お爺ちゃんとお婆ちゃんは今晩果樹園の倉庫に泊り込むことにするからって・・・。」
「ええっ! 嵐って・・・。そ、それで、どうなったの?」
「家で遅い夕飯を食べてから、お爺ちゃんとお婆ちゃんは2台のトラックでまた果樹園に向かって行ったんだ。朝食用のおにぎりを作ってな。」
「お父さんは、ひとりで留守番?」
「ああ・・・、そうだ。でもな、正直言って、お父さん、どう考えても嵐が来るなんて思えなかったんだ。もちろん雨も降ってはいなかったし、空を見上げたら月もちゃんど出ていたからな・・・。
それこそ、“明日も良い天気みたいだね”って言いたくなるような感じだったし・・・。
ところがだ・・・。」
父親は、唇が乾くのか、そこでまた湯飲みを口へと運ぶ。
(つづく)