第2章 タカシの夢はお笑い芸人? (その54)
「それだけ、人間が傲慢になっているってことだ・・・。」
父親は、そう結論付けるように言い換えてくる。
「傲慢って?」
孝は、どうしてそこに繋がっていくのかが分からない。
「自然は、人間に水や食料といったいろいろな恵みを与えてくれるが、その一方で、地震や雷のように、人間に決定的な、つまりは命に関わるほどの打撃を与える一面も併せ持っている。何年か前の阪神・淡路大震災がそのひとつの例だ。
一見、矛盾しているようにも思えるが、それが摂理、つまりは自然界の法則ってもんだ。
地震や雷、そればかりか、台風や大雨による洪水、あるいは日照りによる干ばつ・・・、そうしたものも、これすべてその摂理によるものだ。
そうした自然の力に対しては、人間は無力だ。どうすることも出来はしない。出来ることといったら、そうした災害が自分の身に起きないように祈ることだけだろう。」
「・・・・・・。」
「火事だってそうだ。その原因は火だ。
火を使いこなせる能力は人間しか持っていない。人間があらゆる生き物の頂点に君臨できたのも、その火を使いこなす能力があったからだ。これがなければ、とっくの昔に人間は絶滅していただろう。
だが、その使い方をちょっとでも間違うと火事になる。火事に遭えば、財産すべてを焼失
するばかりか、命さえも落としかねない。」
「そ、それはわかるけど・・・。」
孝は、父親が何を言おうとしているかがまったくつかめない。
「空気や水がなければ人間は一刻たりとも生きて入られない。いや、この地球に空気や水がなかったら、あらゆる生き物は存在してこなかっただろう。もちろん、人間を含めてだ。」
「う、うん・・・。」
「それを与えてくれているのが自然、つまりは自然界なのだが、人間はそのことに感謝することを忘れている。」
「感謝?」
「ああ、そうだ、そうした自然の恵みに対する感謝の気持ちだ。」
「・・・・・・。」
「空気はあって当たり前、水は蛇口を捻ればすぐに出てくるのが当たり前・・・。そう思ってないか?」
「・・・・・・・。」
「まぁ、これ以上言うと、まるで宗教か哲学の話みたいだって言われるからこれぐらいにしておくが、要は『いただきます!』って言葉が単なる食事を始める号令のようになってしまっているってことだ。」
「ご、号令??」
孝の目が点になる。
(つづく)