第1章 爺さんの店は何屋さん? (その8)
そのサイトを開けてみて、小池のおっさんはビックリした。
そう、結構有名な老舗のサイトだった。
いわゆる「交流サイト」である。
で、そのキーとなった会話が画面に現れる。
『R:昨日さ、行ってきたよ。ちょっと遠かったけれど・・・。』
『TonTon:えっ? どこに?』
『R:この前、TonTonが教えてくれた、がきだなって店で・・・。』
『TonTon:ああっ! ずるい! 行ったんだ・・・。で、どうだった?』
『R:う~ん・・・、どうだったって言われてもねぇ~・・・。』
『TonTon:山羊の爺さんっていた?』
『R:うん、いたみたい・・・。』
『TonTon:喋ったりした?』
『R:う~ん・・・、それがさ。すっごい人で・・・。20人ぐらいに囲まれてて・・・。だから、とてもとても・・・。』
『TonTon:ええっっ! な、何かトラブってたの?』
『R:い、いや、そんなんじゃあなくって・・・。』
『サフラン:お邪魔してもいいですか?』
『TonTon:お初! サフランさん。』
『R:こんち、サフラン。ヨロピクです。』
『サフラン:今の“がきだな”っていうお店、大阪の寝屋川ってところにあるお店でしょうか?』
『TonTon:サフランさん、知ってるんですか?』
『サフラン:寝屋川にあるお店だったら知ってます。行ったこともあります。』
『TonTon:わっ! う、羨ましい!!!!』
『R:俺が行ったのもそこだよ。』
「へぇ~・・・、大阪にあったのか・・・。」
ここまで読んだ小池のおっさんは新たな情報ににんまりとする。
寝屋川ってところは知らないが、大阪の一部にある街なんだろうと思う。
だが、肝心なこと、つまりは、「どんな店なのか?」という疑問は、まだ解けていない。
で、時間を気にしつつも、さらに読み進めることにする。
『サフラン:でも、噂によると、近々、お店、閉められるらしいですよ。』
『TonTon:ええっっっ! ど、どうして?』
『サフラン:詳しいことは分かりません。ですから、ここ数日中に行ってみようかと・・・。』
『R:サフランち、近いの?』
『サフラン:う~ん、近いと言えば近いし、遠いと言えば遠い。私、和歌山ですからね。』
『R:ああ、サフラン、和歌山なんだ。俺は播磨だよ。』
『TonTon:播磨って? どこなの?』
『R:兵庫県播磨市』
『TonTon:やっぱ、遠い?』
『R:電車で行けば、2時間以上かかるだろうな。』
『TonTon:そ、そんなに・・・。』
『R:俺は、バイクで行ったよ。指定された駐車場に行ったら、相当に遠いところから来てるバイクや車もあったし・・・。皆、そうしてるんじゃないのかなぁ~。』
『サフラン:私も、今だったら、車。でも、こうして車に乗れてるのも、八木さんのお陰だし・・・。』
『TonTon:ん? 八木さんって? 山羊の爺さんってことじゃあないの?』
『サフラン:ええっ! そ、そうなんですか? 私は、てっきり八木さんだとばかり・・・。
だって、皆が“やぎさん”って呼んでたものですから・・・。』
『R:ああ、確かに、そう呼んでたなぁ~・・。でも、字は分からんし・・・。』
「ん? あの爺さんは、角田と言うんだが・・・。ち、違うのかなぁ~。」
思わぬ展開に、読んでいた小池のおっさんは、「違う店なのかも知れん」とまで思ってしまう。
それでも、ここで読むのを止める気にはならない。
何となく、こうした若者らしき会話に引き込まれる自分を意識する。
(つづく)