第2章 タカシの夢はお笑い芸人? (その49)
「教えてもらえなかったの?」
痺れを切らせたように孝が訊く。
父親がお茶を入れてそれをゆっくりと飲んでいたからだ。
「教えてくれなかったと言えばそうだろうし、しっかりと教えてもらえたと言えばそれもそうって感じかな?」
父親は孝がその話題を無視しないことを噛みしめるようにゆっくりとした口調で言う。
「・・・・・・。」
孝はからかわれたように感じて、黙って空いた食器を流しへと運ぶ。
無言の反抗って気持ちもあった。
「先輩のお兄さん、もう、今となってはどっちのお兄さんが言ったのかも分からないんだが、お父さんを見て『駅伝が志望なのか?』って・・・。
で、お父さん、答えられずに連れて行ってくれた先輩の顔を見たんだ。暗に“どう答えれば良いんですか?”と訊いたつもりだった。」
「そ、それで?」
「そうしたら、その先輩が苦笑いをしたんだ。」
「苦笑い? それって、どういう意味?」
「さあ、どういう意味があったんだろうね。でも、その妹の顔を見たふたりのお兄さん、これまたどちらが言ったのかは分からないんだが、『まあ、しばらくうちの練習を見に来いよ』って・・・。」
「ん!?」
孝が唇を半開きにして父親を見る。
「どうかした? そんな変な顔をしたりして・・・。」
父親は何事もなかったかのように涼しい顔で返してくる。
孝が不審に思った点が分かっているらしい。
「『練習見に来いよ』は良いけれど・・・、今、変なこと言わなかった?」
孝が問い詰める。
「ん? 変なこと? どこがだ?」
「妹とか・・・。」
「ああ・・・、そう言ったが、それのどこが変なんだ?」
「ええっっ! ・・・。って、ことは・・・。」
「そうだよ、その先輩は女子だったんだ。言わなかったかな?」
「き、聞いてない!」
孝は、どうしてか憤慨する。
(つづく)