第2章 タカシの夢はお笑い芸人? (その44)
「先輩だからといって、その競技が必ずしも上手だとは限らない。
高校野球でもそうだろ? 背番号1を着けるピッチャーはエースだが、それが最年長の3年生とは限らない。2年生でエースを張る子もおれば、1年生でその番号を貰う子もいる。3年生のピッチャーがちゃんといるのにだ。
つまりは、実力の世界なんだ。年長だから、先輩だからといって、必ずしも正選手の座が保障されているものでもない。」
父親は、孝の「ちょっと違うような・・・」という言葉を打ち消すように、そう続けてくる。
「そ、それは、分かるよ。でも、実力本位ってのはスポーツだけに限らない、勉強だって実力、つまりは学力がものを言うんだから・・・。」
孝はそう言う。出来ればスポーツのことじゃなくって・・・、と思う気持ちがそう言わせているのかもしれない。苦手なものからは逃れたい。
「確かに、両方とも実力の勝負だ。でもな、スポーツってのは、自分ひとりでは出来ない。
ましてや、その種目がチームで行うものであればなおさらだろ?」
「そ、それはそうだけど・・・。」
「野球は9人、サッカーは11人、バレーボールは6人・・・。
でも、それは同時に競技に参加できる人数であって、交代要員、つまりは控えの選手を加えてひとつのチームだ。」
「う、うん・・・。」
「控え選手の層が厚いチームほど強いチームだと言われる。」
「そ、そうだね・・・。」
「野球で言えば、4番を打つべきホームランバッターばかりを9人並べても、それは野球チームとしては機能しない。
サッカーで言えば、ストライカーばかり11人揃えても、それはサッカーチームじゃあないだろ?」
「もちろん、そうだけど・・・。」
孝にしてみれば、父親がどうしてこんな話をするのかが皆目分からない。
父親の自慢話でもなければ、勉強に関する話でもない。
どちらかと言えば、今の父親と孝には殆ど関係のないことばかりだ。
「お父さんが陸上部を辞めた理由はふたつあったんだ。」
父親は、少しの間を空けるようにしてから、改めて自分の過去へと話題を戻す。
「ん? 新聞配達のバイトをするためじゃあなかったの?」
孝は、てっきりそうだと思い込んでいたから、そう訊きなおす。
(つづく)