第2章 タカシの夢はお笑い芸人? (その43)
「だけど、それが分からないのは、“叱られたり叩かれたり”した側の人間がまだ未熟だからだ。そうして何度か“叱られる”や“叩かれる”ことを経験していくなかで、それが“怒られる”や“殴られる”のとは明らかに違うんだってことが分かるようになってくる。
頭ではなくって、身体がその違いを覚えていくんだ。」
父親は、意識してなのだろう、それまでとは比べ物にならないほどにゆっくりと話してくる。そう、まさに「噛んで含める」という感じでだ。
「ええっ! そんなこと、何度やられても分かるもんじゃないでしょう!」
孝はこれまた自分の経験を踏まえて主張する。
それを「未熟だからだ」と片付けられてはたまらないと思っている。
「そ、そうだなぁ・・・。今の若い子が好きな言葉で言えば、『そこに愛はあるか?』ってことだ。」
「あ、愛?! ・・・。怒ったり殴ったりするのに、愛なんて、ある訳ないんじゃない? 冗談じゃない・・・。」
「本当にそう思うか?」
「うっ・・・、うん・・・。」
「やっぱり、孝にも運動部を経験させておくべきだったかなぁ~。」
「そ、そんなこと、関係ないでしょう!」
「い、いや、そうじゃあない。お父さんも、お爺ちゃんから『中学生になったらどのクラブでも良いから運動部に入れ』って言われてな。それで陸上部に入ったんだが・・・。」
「でも、短期間で辞めたんでしょう?」
「ああ・・・、だから、後悔をしてるんだ。」
「ん? どうして? 嫌だったら、無理して続ける必要なんてないでしょう。それで良い学校に進学できる訳はないんだし・・・。」
「今はどの程度か知らないが、運動部ってのは、上下関係、つまりは先輩後輩の規律が厳しいだろ?」
「ああ・・・、そ、そうみたいだね。友達もぼやいていたよ。先輩にしごかれるって・・・。それでも、文句は言えないらしい。」
「だろ?」
「あんなの、今じゃあ流行らないんだと思うけど・・・。」
「う~ん・・・、確かに、行き過ぎる傾向はあるみたいだが・・・。
それでも、運動部ってのは、そうした所謂先輩後輩の関係は絶対的なところがある。」
「そ、そうみたいだね。」
「その先輩後輩の関係も、そこに『愛』があるから崩壊せずに今でも続いているんだ。」
「んんん? ちょっと、違うような気もするけど・・・。」
孝は、この最後の部分だけは少し自信がなかった。
(つづく)