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第2章 タカシの夢はお笑い芸人? (その42)

「“叩く”と“殴る”もそれと同じだ。」

父親は改めてその話題へと取って返す。


「・・・・・・。」

今度は、孝も即座に反論はしなかった。


「“叩く”も“殴る”も、相手に対して手を出しているという点では同じだ。

だが、それでも、さっきの“叱る”と“怒る”に明らかな違いがあるように、この“叩く”と“殴る”にもその根本的なところに違いがあるんだ。」

「で、でも・・・。」

孝はようやくそれだけを言う。理論で言われるとそうなのかもしれないが、現実の問題としてはそう簡単に割り切れるものではない。そう思うからだ。

何かで怒られたとき、「ひょっとすると、これは“怒られてる”んじゃなくって、“叱られてる”のかもしれないな」などとは考えられない。

ましてや、殴られて痛みが走っているときに、「これは“叩かれている”のかもしれん」とは誰も考えないだろう。


「要は、能動者の気持ちの面、つまりはここの問題なんだ。」

父親は、そう言って自分の心臓の上を指差した。


「で、でも・・・、それって、やられたほうは、そんなこと分からないでしょう?

殴っておいて、後で『今のは叩いただけだからな』と言われても納得なんか出来ないし・・・。」

孝は自分の経験上からそう抵抗する。

酷い奴は、殴っておいて、「今のは撫でただけだし」と逃げ口上を言う。


「ああ、確かに。」

父親は、予想に反して孝の最後の反論を否定しなかった。



「だから、お父さんも、その新聞配達所の店主さんにぶっ叩かれたときには思わず椅子から立ち上がったさ・・・。いきなりのことだったってこともあるんだろうけど、まさか、その店主さんにぶっ叩かれるとはまったく予想していなかったからなぁ~・・・。」

父親は、今一度自分の頬に手を当てて言う。


「殴られたって思ったでしょう?」

孝が父親の顔を覗き込むようにして訊く。


「う~ん・・・、ど、どうだったんだろう? その瞬間、痛みが走ったものの、一体何が起こったのかが分からなかったというのが正直なところだろうな。」

「で、でも、店主さんの手が飛んでくるのは見えたんでしょう?」

「さ、さあ・・・、どうだったんだろう・・・。」

「そ、それから、どうなったの?」

孝の頭からは、“叩く”と“殴る”の違いなど吹っ飛んでいた。



(つづく)



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