第2章 タカシの夢はお笑い芸人? (その41)
「じゃあ、孝の言い方だと、“叱られる”も“怒られる”も同じってことだな?」
父親は熱くなりかけている息子の頭を冷やそうとしたのか、話題を切り替えてくる。
「ん? “叱られる”と“怒られる”? 結果としたら、同じでしょう? どっちにしても、言われたほうは気分が悪い・・・。」
孝も勢いが止まらない。
「まったく同じなのか?」
「う~ん・・・、同じことだと・・・。」
「本当か? 本当にそう思うのか?」
「そ、そう思う・・・。」
「良いか? “叱る”ってのは、相手の言動のよくない点を指摘して、それを直すように直言することだ。他方、“怒る”ってのは腹が立ったことで相手を責めることだ。」
「そ、そんなの、屁理屈だし・・・。」
「い、いや、屁理屈なんかじゃあない。辞書にもそう載っている筈だ。」
「・・・・・・。」
辞書と言われて、孝の口が空回りする。
「よ~く考えてみな。
“叱る”ってのは、ちゃんとした理由、つまりは相手の言動でよくない点を指摘するという正当な理由がある。
それに対して、“怒る”ってのは、自分の感情が抑えられないほどの怒りがその根底にある。
つまりは、“叱る”と“怒る”は、その原因からして全然別なものなんだ。」
「そ、そんな・・・。」
「確かに、言われる側からすれば、同じように感じるのかもしれん。孝の言うとおり、決して言われて気持ちが良いものではないからな。
それに、誰も『これから叱るから・・・』とか『これから怒るから・・・』とは説明しない。
言う側の人間にとっても、それは一瞬の出来ことであり、一瞬の判断だからだ。
だからこそ、そこに“叱る側”“怒る側”とそれを受け止める側に齟齬が生じやすいんだ・・・。」
「そ、それは分かるけど・・・。」
孝は、このままでは終われないと思う。
(つづく)