第2章 タカシの夢はお笑い芸人? (その40)
「ほ、ほう・・・、我慢できない? だ、だったら、どうするんだ?
殴られたんだから殴り返すってか? でも、相手は大人だぞ? それでも、殴り返すだけの根性があるのか?」
父親は、まるで孝を挑発するように言う。
「うっ! う~ん・・・。」
孝は答えられない。ただ、唸るだけになる。
「確かに、現代だったら、ありえないだろうな。そうして、新聞配達所の店主さんが中学生だったお父さんをぶっ叩くなんて・・・。
でも、その当時、つまりはお父さんが子供の頃は、それはよくあることだったんだ。」
「うっ、うっそ~!」
「いや、嘘なんか言わない。本当の話だ。」
「そ、そんな・・・。それって、問題でしょう?!」
「う~ん・・・、“問題になる”ってか・・・。
今だったら、そうだな、やはり“暴力を振るわれた”ってことで訴えられるのかもしれんな。」
「で、でしょう? それが当然だと・・・。」
孝は勝ち誇った気分になる。
「そりゃあな、お父さんだって、そうした力づくの躾けが必ずしも正しいとは思わない。
だけど、少なくとも、それも一定の効果があったことは紛れもない事実だとも思うんだ。」
「ん? しつけ? お父さん、暴力を肯定するの?」
「暴力? う~ん、だから、そこが違うんだ。」
「ん? どこがどう違う?」
「さっきも言ったが、それを暴力と受け止めるかどうかなんだ。」
「な、殴られたんでしょう? ここんとこを・・・。」
孝は、自分の頬を軽く叩いて言う。
「だから、お父さんは殴られたのではなくって、叩かれたんだって・・・。」
「う~ん・・・、だから、“殴られる”も“叩かれる”も、結果としたら同じだって・・・。」
「そこが違うんだってば・・・。」
「ん? 表現が違うだけで、暴力であることには間違いがないって・・・。」
孝も気持ちがヒートアップする。
(つづく)