第2章 タカシの夢はお笑い芸人? (その38)
「だから、それを黙って見逃してくれたお爺ちゃんは凄いって思うんだ。そして、感謝もしてる。」
父親は繰り返すようにそのときの祖父を持ち上げる。
「か、感謝?!」
孝も、そのときの祖父のように、何でも黙って見逃しくれればありがたいと子供心に思いはするが、だからと言って、それを言葉にすることは控える。
「ああ・・・、だって、そうだろ?
その新聞配達所の店主さんは、お父さんのアルバイトをしたいという申し出を断るつもりだったんだぞ。中学生を雇うわけには行かないって・・・。」
「・・・・・・。」
「まぁ、それでも、お父さんがどこの誰の子なのかを知っていたから、一応はその保護者であるお爺ちゃんの耳に入れてからと猶予してくれたんだ。」
「ゆ、猶予?」
「ああ・・・、猶予だ。物の弾みで思いついただけってことも考えてくれたんだろう。
お父さんに考え直す時間を与えてくれようとしたのかもしれない。」
「・・・・・・。」
「で、その店主さん曰くだ。お爺ちゃんも“ああ、断ってくれて良い”と言うだろうと思っていたそうだ。お父さんが書いた申込書を見せたのも、それをより確実なものにするためだったらしい。
ところが、さっきも言ったとおり、お爺ちゃんは“させてやってくれ”と頭を下げてくれたんだ。おまけに、その賃金はお爺ちゃんが出すからと・・・。」
「・・・・・・。」
「孝は、どうしてお爺ちゃんがそんな手間なことをしたと思う?」
話が一区切りしたと思ったのか、父親は孝にそう訊いてくる。
「ど、どうして? う~ん・・・、分からない。」
孝は正直に言う。
「“それは、父親の優しさと厳しさが微妙に入り混じっているからだ。”
そう、その店主さんに教えられた。」
「優しさと厳しさ?」
孝はそうオウム返しに言ったものの、内心では「なんて奇麗事を」と思っていた。
(つづく)