第2章 タカシの夢はお笑い芸人? (その37)
「どうして? さぁ、どうしてなんだろうなぁ~・・・。」
父親は自らの言葉をそうはぐらかす。
その一方で、その言葉を投げ返してくるように、じっと孝の顔を見る。
「な、なんだよ!」
孝は、そうされることにも抵抗があった。
茶碗のご飯が全部なくならないのに一気に食欲が消えていくのを感じた。
「今のお父さんだったら、そのときのお爺ちゃんみたいに対応できたか、正直言ってまったく自信がない。」
「んん? ど、どういうこと?」
「もし、もしもだ、そのときのお父さんが孝で、お爺ちゃんがお父さんだったら・・・って思うと、ってことだ。」
「・・・・・・。」
「お爺ちゃんがしたように、黙っていられたかどうか・・・。」
「黙って、って?」
「孝が家に内緒でバイトをしようとしていることを知ったら・・・ってことだ。」
「ぼ、僕は、そんなことはしないよ!」
「分かってるさ、だから、もしもの話だと言ってるだろ?」
「だ、だったら良いけど・・・。」
「もし、孝が家に内緒でバイトをしようとしていると知ったら、きっと、即刻呼びつけてるんだろうなって思う。」
「で、怒鳴る?」
「う、う~ん・・・、怒鳴るかどうかも分からないが、きっとお爺ちゃんのように黙って見守ってやるだけの度量はないのかもしれん。」
「や、やっぱり、怒るんだ・・・。」
「いや、いきなり怒るってのじゃなくって・・・、う~ん、やっぱり、一応の説明は求めるだろうな。」
「一応の説明? どんなバイトなのかとか?」
「い、いや、そうではなくって、どうして内緒でやろうとしているのかってことだ。」
「・・・・・・。」
結局は、その「内緒で」という点に問題があるとの認識らしいってことは孝にも理解できた。
(つづく)