第2章 タカシの夢はお笑い芸人? (その36)
「そうだなぁ~・・・、その当時、お父さんは随分と華奢だったからなぁ~。いや、ひ弱と言ったほうが良かったぐらいだった。
だから、“中学に入ったら何でも良いから運動部に入れ”ってお爺ちゃんに言われてたんだ。
今のお父さんからは想像できんだろうが・・・。」
父親は、自分のお腹を撫でるようにしながら言う。
今は、“メタボ体形”とまでは言わなくっても、それに近い。
「へぇ~・・・、そうだったんだ・・・。で、その運動部って、何部だったの?」
孝は信じられない気持ちもあってそう訊く。
「陸上部だ。僅か2ヶ月で辞めてしまってたんだが・・・。
まぁ、そのことも、お爺ちゃんはどうやら知っていたらしい。お父さんは言わなかったのにだ・・・。
だからだろう。お父さんが新聞配達をすることになったと聞いて、わざとその遠い区域を担当させてくれって頼んだらしい。
そこだと、自転車で行くにしても、相当な運動量になるからな。何しろ山間だ。道の殆どが坂道になっているといっても言い過ぎじゃあなかった。」
「で、でも・・・、だからって・・・。」
孝は不満に思う。
仮に体力強化の目的があったにせよ、子供がバイトで頑張ろうとしているのに、わざわざその子供に辛い目をさせるなんて・・・。そんな思いがあったのだ。
それこそ、親の傲慢ではないのかと。
「ん? 何か、納得がいかないって顔だな?」
さすがは父親である。そうした孝の心境を嗅ぎ取ってくる。
「う、うん・・・。だって・・・。」
孝はそれでも自分の思いを言葉に出来なかった。
「意地悪なことを・・・って、そう思うのか?」
「・・・・・・。」
孝は黙っている。
「でもなぁ~、お父さん、そうした事実をその新聞配達所の店主さんから聞かされて、舌を巻いたんだ。」
「ん? 舌を巻く?」
「ああ・・・、お爺ちゃんって凄いなぁって・・・な。」
父親は苦笑いをしながらそう諭すように言ってくる。
「ど、どうして、そう思った?」
孝は、父親の意見に賛同できない。
(つづく)