第2章 タカシの夢はお笑い芸人? (その35)
「お父さん、否定は出来なかった。
もちろん、そんな意識があったという自覚はなかったんだが、それでも、そうして真正面から問われると、“いや、そうじゃあない”とは言えなかった・・・。」
父親は、孝の目を見つめながら自嘲するような言い方をする。
「そ、それで、どうなったの?」
孝は話の先を急ぎたくなる。どうしてか、この場面を一刻も早く通り過ぎたいという気持ちがそう言わせる。
「その店主さん、こうも言ってきたんだ。
“だから、君にやってもらった配達のエリアはここから随分と遠かっただろ?”って・・・。」
「んん? 配達エリア?」
「ああ・・・、そうだ。お父さんが新聞を配っていた地域は、山間部の山田地区だったんだ。」
「ええっっ! 山田地区って、あの山田村のこと?」
その村のことは孝も知ってはいた。随分と山奥にあるいわば過疎村である。
農業離れと人口減少が重なって、今では半数の家が無人だと言われるほどだ。
一度、中学のときにキャンプに行ったことがあった。
「ああ・・・、当時、その新聞配達所が担当していた配達地域で最も遠い場所だったんだ。
で、店主さんが言うに、“君にそのエリアを担当してもらったのも、実は、君のお父さんからお願いされたからなんだ”って・・・。」
「えっ! そ、それも、お爺ちゃんが!?」
「ああ・・・、そうだったらしい。」
「ど、どうして?」
「あの山田地区ってのは、お父さんが通っていた中学のエリアではなかった。つまりは、学校区じゃあなかった。
と、言うことは、お父さんが新聞を配っていても、学校の友達と顔をあわせる可能性は殆どなかったってことになる。
お爺ちゃん、お父さんに恥をかかせまいとしてくれたらしい。」
「・・・・・・。」
「それに、お父さんの体力強化も考えてのことだったようで・・・。」
「ん? 体力強化?」
孝は、突然のように出てきたその言葉に違和感を覚えた。
(つづく)