第2章 タカシの夢はお笑い芸人? (その33)
「お爺ちゃん、両手をついて“ご迷惑だろうが、是非、本人の言うとおりにやらせてみてもらえないだろうか”って言ったそうだ。」
父親は、それを聞いたときの衝撃を思い出すかのように遠い目をして言う。
「ええっっっ! で、でも・・・、それって、法律違反になるんでしょう?」
孝はその点を突く。たった今知った知識だが、それでも結果として父親がそのバイトをしたというのだから、どうしてもその部分を無視することはできなかった。
「そ、そうなんだな。だから、お爺ちゃん、店主さんもビックリの提案をしてきたって言うんだ。」
「ん? ビックリの提案?」
「つまりはだ、その法律違反にならないで、かつ、お父さんがそのアルバイトをやれる環境を作ろうとしたんだ。」
「ど、どういうこと?」
孝はその理屈が分からない。
「お爺ちゃんが言うに、“アルバイトの真似事”をお父さんに経験させたいって・・・。」
父親は、その“真似事”の部分に力を込めて言う。
「真似事?!」
「ああ・・・、まさに“真似事”だ。」
「・・・・・・?」
「中学生のアルバイトは法律で規制されている。だから、お爺ちゃんもその店主さんにお父さんを働かせてやってくれとは言えない。
だからなんだろう。お爺ちゃん、“無給で良いから”って提案したんだそうだ。」
「む、無給?! で、でも・・・、お父さん、3万円、ちゃんと貰ったんでしょう?」
孝は、今までに聞いた話を持ち出す。無給のバイトなんて、ありえない話だと思うからでもある。
「ああ・・・、確かに、バイトの最終日に3万円貰った。」
「で、でしょう!」
「でも、それは、お爺ちゃんから事前に預けられたお金だったんだ。」
「ええっっっ! そ、それって、どういうこと?」
「どういうことって・・・、単純に、そういうことだ。お父さんが貰った3万円は、実は家から出されたお金だったってことだ。」
「・・・・・・。」
孝は、開いた口をしばらくは閉じることが出来なかった。
(つづく)