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第1章 爺さんの店は何屋さん? (その6)

それはそうなるだろう。

ここは商店街である。

どの店も、どの業種でも、必死で商売をしているのだ。

つまりは、それでご飯を食べている。生計を立てている。


それなのに、あの角田という爺さんは、「儲ける気がない」と言っているらしい。

(そ、そんな馬鹿な・・・。だったら、どうして店なんかをやるんだ?)

そう思うのが普通である。



「どうも、町村さんが頭を下げてのことらしいな・・・。」

会長は、聞いた話として言う。


「えっ! そ、それって、どういうことなんです?」

小池のおっさんは訳が分からない。


「う~ん・・・、だから、ビルのオーナーである町村さんが、あの角田とかいう人に頭を下げたらしいんだな。

是非とも、あの正栄ビルで店をやって欲しいと。

だから、うちにも町村さんが付いてきたんだろう。」

「そ、そんなに凄い人なんで?」

小池のおっさんはそう訊くしかない。


「う~ん・・・、きっと、そうなんだろうな。」

「で、でも、儲ける気はないと?」

「ああ・・・、そうらしい。」

「じゃ、じゃあ、どうして?」

「ん?」

「どうして、そんな儲からない商売を町村さんが?」


「う~ん・・・、そこなんだが・・・。どうやら、街の活性化というか、そうしたものを町村さんは念頭においているらしい。」

「活性化?」

「ああ・・・。」

「・・・・・・。」

おっさんは首を傾げる。


確かに、ここ数年、商店街全体の売上も下がりっぱなしである。

街の人口も減少しているし、それに従って商店街への人出も目に見えて少なくなっている。

おまけに、郊外には大資本のモールやスーパーが進出をして、客足を奪っている。

商店街の約1割の店がシャッターを下ろしたままだ。


商店会としても、そうした現状をただ黙って見ていただけではない。

共通のクーポン券を発行したり、夏祭りを開催したりと、いろんな活性化施策に取組んできた。

それでも、集客を増やすことは残念ながら出来てはいないのだ。


それなのに、たった1軒の小さな店を招致したからと言って、それが商店街の活性化に繋がるとはとても思えなかった。



「わしにも詳しいことは分からんのだが、あの町村さんが頭を下げて連れてこられたんだ。それなりの秘策ってのがあるんだろう。

町村さんからも、“暫くは黙って見てやって欲しい”と言われた。」

「そ、そうなんですか・・。」

「でもな、以前おられたところでは、とんでもないことが起きたそうだ。」

「とんでもないこと!」

おっさんは、「やっぱりな!」と思ったらしい。

自分の感性がずばり当たったと。


「ああ・・・、一度、その街を見てくれば良いとアドバイスされたよ。遠くから客がどっと来るらしいからな。」

「ええっ! そ、そうなんですか・・・。」

「その街には、今でも“がきだな”っていう店があるそうだ。」

「えっ! “がきだな”って?」

「あの角田さんがやる店の名前らしい。」

「そ、そうなんですか・・・。あああ・・・、そ、そう言えば・・・。」

おっさん、蕎麦屋の長さんがそんな変梃りんな名前の店だと言っていたなと思い出す。


「そういうことだから、この引越し蕎麦券、早急に配ってやって欲しい。

町村さんの手前もあることだしな・・・。」

会長は、そう言ったかと思う腰を上げた。


「ああっっ! も、もうお帰りで?」

おっさんが訊く。


「い、いや、ちょいと、その店を覗いてみようと思ってな・・・。」

そう言い残して、会長は事務所を足早に出て行った。



(つづく)




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