第2章 タカシの夢はお笑い芸人? (その32)
「確かに、絶対に駄目だとはなっていない。“特例”、つまりは“例外”ってのはある。家庭の事情もあるだろうしな。」
孝の思いを感じ取ったのだろう。父親は、即座にそう付け加えてくる。
「そ、そうだよねぇ・・・。」
孝は、中学時代にバイトをしていた友達の顔を思い浮かべながら、そう応じる。
別に、家が経済的に困っている子ばかりとは思えなかったが・・・。
「ただ、その場合でも一定の条件が付けられている。
ひとつは、通っている中学校の校長先生の許可、ふたつには労働基準監督署長の許可だ。
その2つの書類が揃っていない限り、事業者、つまりは雇い主は雇ってはいけないことになってるんだ。」
父親は出来るだけ分かり易くを心掛けたのだろう。ゆっくりと説明する。
「へ、へぇ~・・・、そ、そうなんだ・・・。知らなかった・・・。」
孝は感心するかのように小さく何度も頷く。「だったら、あの子たちは、どうだったんだろう?」という疑問を打ち消したくなる。
「孝が知らなくって当然だ。お父さんも、その当時はそんなこと頭の端にもなかったんだからな。」
「じゃ、じゃあ、そのことはいつどこで知ったの?」
「だから、それを、その新聞配達所の店主さんから教えてもらったんだ。」
「ん?」
「さっきも言ったが、お父さんがそのアルバイトを申し込みに行ったとき、その店主さんは“断ろう”と思ったそうだ。理由は、今話した、労働基準法による規制に引っかかると分かっていたからだ。
それでも、あまりにお父さんがしつこく“頑張るから、休まないで来るから”と懇願したものだから、“じゃあ、一応、申込書だけ書いてくれ”って言ったんだな。
“ご両親の許可は取ってあるか?”との問いに、お父さんが“はい、ちゃんと取ってあります”と言ったものだから、それを確かめる必要もあると思ったらしい。
つまりは、お父さんがどこの家の子であるかを知ってたってことだ。」
「・・・・・・。」
「それで、その店主さん、お父さんが書いた書類をお爺ちゃんに見せたんだな。
“断りたいのだが、どのように言えばお父さんに傷がつかないか”を相談しようとしたらしい。そうしたら・・・。」
「ん? そうしたら?」
孝は、父親の話がふと止まったのに気がついた。
(つづく)