第2章 タカシの夢はお笑い芸人? (その30)
「ああ・・・。何となく、その場に居辛くってな。強いて言えば、雰囲気が昨日までとは違っている気がしたりして・・・。」
父親は当時の自分と会話をしているかのように頷きながら言う。
「・・・・・・。」
孝には、当然だがその場の雰囲気とやらは理解できないし、また、想像もできない。
「で、帰ろうと扉に手を掛けたときだった。ふとしたものが目に飛び込んできた。」
「ん?」
「見慣れたものだった。」
「な、何?」
「家で、出荷用に使っていた果物籠だ。」
「くだものかご!?」
「ああ・・・、今は使っていないんだが、当時は入院された方へのお見舞い用にと籠に何種類かの果物を入れたものを扱っててな・・・。」
「その籠があったってこと?」
「ああ、しかもだ、果物が大盛入れてあってな。」
「ん? ・・・・・・。」
孝は、それが意味することに思い至らない。
「お父さんがそれに気がついたのとほぼ同時に、区分け作業をしていた店主さんが手を止めてその果物籠を店の奥へと持っていったんだ。つまりは、お父さんの視界からそれを隠そうとした。いや、少なくとも、お父さんにはそう思えた。」
「・・・・・・。」
「で、お父さん、その店主さんの後を追うように奥へと入ったんだ。」
「えっ! ど、どうして?」
「それは、その籠をもって家の誰かがその新聞配達所にきたってことになるからだ。どうしても、それを確かめたかったんだ。」
「そ、それで・・・?」
「“ま、座れ”って言われたよ。店主さんに・・・。」
「・・・・・・。」
「で、“気がついたのか?”って・・・。その籠を指差して・・・。」
「で?」
「そこで聞かされた話が衝撃的だったんだ・・・。お父さんにとってはな。」
父親は、ここまで言って大きな深呼吸をした。
(つづく)