第2章 タカシの夢はお笑い芸人? (その29)
「そ、そうだ、罪悪感だ。つまりは、“悪いことをしてるなぁ~”っていう反省だな。」
父親は孝の顔色を窺うようにしながらそう噛み砕く。
「悪いことって・・・。何もしてないでしょう? ただ、お爺ちゃんに内緒でバイトをしたってことだけで・・・。」
孝は、父親が言う「罪悪感」がどうしても理解できない。いや、認めたくないのだ。
もし父親の言葉に「そうだね」とでも言おうものなら、今日の自分を真っ向から否定することになりかねない。
ここは絶対に譲れないし、譲るべきではない。そう思った。
「で、さっきの話に戻るんだが・・・。」
父親はそういう孝の言葉を無視するかのように話を進めてくる。
「ん? さっきの話って?」
孝も不意をつかれたようにそう応じる。
「バイトがなくなった日の帰りだ。」
「う、うん・・・。」
「まっすぐ帰るとそれまでより随分と早くなってしまう。」
「う、うん・・・。」
「クラブも辞めていたしな・・・。」
「・・・・・・。」
「で、思いついて、その新聞配達所に立ち寄ったんだ。そこで時間をつぶそうと思ったんだろうな。」
「で、でも・・・、バイトはもう終わりだったんでしょう?」
「ああ・・・、それはそうだったんだが・・・。」
「・・・・・・。」
「だから、案の定、言われたよ。」
「ん?」
「配達所の人たちにだ。“バイト、昨日で終わったんじゃなかったのか?”ってね。」
「そ、それで?」
「“それは分かってる”って言ったら、“じゃあ、どうして来たんだ?”って・・・。」
「・・・・・・。」
「でも、とても“今から帰ると早すぎるんで時間つぶしに”とは言えなかった。」
「そ、それはそうだろうけど・・・。」
「だから、帰ろうって思った。」
「えっ! 帰ったの?」
孝は父親の言葉に意外なものを感じた。
(つづく)