第2章 タカシの夢はお笑い芸人? (その26)
「そう、訳が分からんだろ? お父さんもそのときは訳が分からんかった。」
父親は、そうした孝の単純な疑問を肯定した上で、さらには自分もそう思ったと積み重ねてくる。
「んんん???」
孝は父親の言葉に首を傾げた。言っている意味が皆目分からなかったからだ。
「そのバイト代を受け取った日だ。
その日に、新聞配達所の店主から“この件は既に君のお父さんの耳には入れてあるからな”という告白を聞かされたんだ。
つまり、お爺ちゃんはお父さんがラジコンを買うために両親に内緒でバイトをやっていることをずっと以前から知っていたってことだ。」
「う、うん・・・。それは、さっきも聞いた。」
「それなのに、一度も何も言ってこない。ほぼ2ヶ月も前に聞いていたのにだ。
お父さん、そのことがやけに気になってきてな。」
「お爺ちゃん、忘れてたんじゃない?」
孝はそういう他はない。
「い、いや、忘れるどころか、毎日冷や冷やしていたらしい。」
「ん? ヒヤヒヤ? ど、どうして?」
「お父さんが、休まずに毎日ちゃんと新聞配達に行っているかが心配だったというんだ。
まぁ、このこともずっと後になって聞いた話だったんだが・・・。」
「・・・・・・。」
孝は、「それは嘘じゃないか?」と思った。
もちろん、そんなこと、口が裂けても言えはしないが、子供がするバイトに親がそこまで気を遣うことはない筈だと思えたからだ。
子供にしても、そこまで親に管理されたくはない。
「そのバイトが終わった翌日のことだ。つまりは、バイト代を手にした翌日だ。」
父親は、如何にも「ここからが核心の部分なんだ」とばかりに身を乗り出してくる。
「う、うん・・・。」
孝は少し引き気味にそう相槌を入れる。
「バイトに立ち寄る必要がなくなったから、当然、学校からの帰りはそれまでよりも早く着いてしまうわな。」
父親は、孝に確認するかのように言ってくる。
「そ、そりゃ、そうだね・・・。だ、だったら、その時間を使ってラジコンを買いに行けばよかったんじゃない?」
孝は、あくまでもそのラインから抜け出せない。
目的があってバイトをしていたのだから、その目標となる現金が手に入った以上、何も躊躇する必要はないだろうと思っていた。
(つづく)