第2章 タカシの夢はお笑い芸人? (その25)
「孝に笑われるのかもしれないが、お父さんは、そのバイト代の3万円をそっと自分の机の引き出しにしまったままでいたんだ。」
父親は、孝の顔色を窺うようにしながら言う。
「んん? ラジコン、買ったんじゃなかったの?」
孝は、今までに聞いている話と違うと思う。
「い、いや・・・、最終的には買うことになったんだが・・・。」
「で、でしょう?」
だったら、そんなもったいぶった言い方をしなくってもと批判的になる孝だ。
「何度も言うけど、ラジコンが欲しくってその代金をバイトで稼いだお父さんは決して間違ってないと、僕は思う。
だから、ううん、だからこそ、どうしてすぐに欲しかったラジコンを買いに行かなかったって疑問に思う。自分で稼いだお金なんだし、それをどう使おうが誰に文句を言われることはないって・・・。」
孝は自分なりの主張をそう展開する。
このままのこう着状態が続くようだと気が滅入ると思えたからだ。
先手を打つ意図もあった。
「・・・・・・。」
父親は、そうした主張を繰り出す息子孝をまぶしそうに見ていたが、それでも、すぐにその息子の意見に反応はしなかった。
意識して、間を空ける作戦のようだった。
「だからさ、最初に言ったろ? ラジコンは、お爺ちゃんお婆ちゃんから貰っていた毎月の小遣いを貯めて買ったんだって・・・。」
父親は改めてその話を持ち出してくる。
「ん? じゃ、じゃあ、そのバイト代は?」
孝にすれば、まさに訳の分からない方向へと話が向かっているように思えた。
「そのまま、お婆ちゃんに手渡した。」
父親の返答はこれまた孝にとってはありえないものだった。
「ど、どうして?」
孝の頭は混乱する。
(つづく)