第2章 タカシの夢はお笑い芸人? (その23)
「ラジコン飛行機が欲しい。そのためにはお金が要る。
お婆ちゃんに頼んだら、そんなことはお爺ちゃんに言いなさいと断られた。
で、バイトでお金を得ることを考えた。」
父親は、物事をそう整理する。もちろん、それは孝に事の顛末をより正確に伝えるためにだろう。
聞いている孝はそう受け止める。
「あの時、お婆ちゃんに言われたとおりにしておけば良かったんだ。お父さん、後になってそう後悔をしたんだ。」
「こ、後悔? ど、どうして? 結果としてバイト代でラジコン飛行機が買えたんでしょう? だったら、それで良かったんじゃない?
少なくとも、買ってもらったんじゃなくって、自分が働いて稼いだバイト代で買ったんだし・・・。」
孝としては、父親が後悔をする理由が理解できない。それどころか、逆に胸を張っても良いことだったのではないかとさえ思う。
「いや! そうじゃあない! そうじゃあないんだなぁ~。」
父親は、珍しく語気を強めてそう言ってくる。孝が父親の「後悔した」という言葉に同意してこないことが予め分かっていたかのようにだ。
「ど、どうして?!」
孝も即座にそう応酬する。まさに、売り言葉に買い言葉だ。
「バイトの期間が終わって、3万円を受け取った。最後に一括で受け取る約束だったしな。」
父親は、意識してなのだろう、一呼吸空ける様にして言葉を続けてくる。
「でもなぁ~、その3万円をもらえたのに、お父さん、なかなかラジコンを買いに行けなかったんだ。」
「ど、どうして? 自分で稼いだお金なんだし、何も迷う必要もなかったでしょう?
ぼ、僕だったら、その翌日にでも飛んでいくけれど・・・。」
「お父さんも、最初はそのつもりだったさ。日に650円の約束だったから、延べ46日。カレンダーに丸をつけてその日数を数えていたんだしな。」
「で、でしょう? だったら、どうして?」
「問題は、そのバイトをお爺ちゃんにもお婆ちゃんにも内緒にしていたってことだ。」
「うっ、う~ん・・・、でも、そ、それは、もう仕方がないことじゃない? べ、別に悪いことをしていた訳じゃあないんだし・・・。」
「でもな、そのバイトの最終日に、お金を受け取るのと同時に、実はお爺ちゃんには話をしたんだって言われたんだぞ。新聞店の店主さんから・・・。」
「う、う~ん・・・。」
「つまりは、お爺ちゃんお婆ちゃんは、お父さんがラジコン欲しさにバイトをしていることを知ってて、その日まで何も言ってこなかったってことになる。」
「・・・・・・。」
(つづく)