第2章 タカシの夢はお笑い芸人? (その22)
「そうした話を聞いてからかな?」
父親は、ふと呟くように言う。
目の前の孝に言うのではなく、まるで自分自身に問いかけているようにだ。
もちろん、それは孝が一方的に感じたことだったが・・・。
「・・・・・・。」
だからでもある。孝は、動きを止めたままで、視線だけを父親に向ける。
先ほどの言葉に続きがあるだろうと思えたからだ。
「お父さんが子供の頃って、どう足掻いても両親には勝てやしないって感覚があった。
だからこそ、そうして内緒でバイトをやったりもしたんだが・・・。
俗に言う、無駄な抵抗だな。」
「む、無駄な抵抗!? ・・・。」
孝はその父親の言葉に軽い衝撃を感じた。で、自然と視線を手元に落とす。
「そうは思わんか?」と今度は自分に向けてこられそうに思ったからだ。
孝には、父親が言った「両親に勝つ」とかという感覚はなかった。
もちろん「負ける」という意識もない。
つまり、親と子供の間で、「勝つ」とか「負ける」という切り口で物を考えたことがなかった。あくまでも「親は親」で「子は子」である。そこには、当人ではどうしようもない位置関係だけが存在をしていた。
その一方で、だからと言って、両親を自分とっての「絶対的な存在」として受け止めたこともなかった。
「ああ・・・、無駄な抵抗だ。」
父親には孝の呟きが聞こえていたようだ。言葉を重ねるようにして言ってくる。
もちろん、孝自身はそれを言葉にしたつもりはなかったのだが・・・。
「ど、どうして、バイトをすることが無駄な抵抗なの?」
孝はようやっとの思いでそれだけを問い返す。聞こえてしまっていた以上、このまま黙っている訳にも行かないと思ったからだ。
「い、いや、バイトをしたことが無駄な抵抗だと言ってるんじゃなくってな。それを内緒でやったってことがだ。」
「ん?」
「つまりは、内緒でってのは、その一時だけってことだ。いずれはばれる。」
「・・・・・・。」
孝は、父親の主張がまっすぐには飲み込めなかった。
(つづく)