表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/187

第2章 タカシの夢はお笑い芸人? (その21)

「その晩だったようだ。」

父親が種明かしをするような顔で言う。


「な、何が?」

孝はもう食事どころではなくなっていた。

どうしてなのかは自覚も出来なかったが、とうとう箸を持つ手を止めてしまう。


「その当時、お爺ちゃんは町内会の役員をしてたんだ。」

「えっ! そ、そうだったの?」

「ああ・・・、それで、毎週木曜日に町内会長宅で集まりがあったんだ。いわゆる役員会って奴だ。」

「う、うん・・・。」


「その席に、お父さんがバイトを頼みに行った新聞配達所の店主さんもいたんだな。」

「その人も?」

「ああ・・・、同じ役員だったらしい。で、その席で、その店主からお爺ちゃんの耳に入った。」

「そ、それで?」


「お父さんが書いた履歴書を持って来てたらしい。何よりの証拠だからな。」

「・・・・・・。」

「これをって、何も言わないでお爺ちゃんに手渡したらしい。」

「そ、そんなぁ~・・・。」

孝は、何もそこまでしなくっても・・・と思った。

現代風に言えば、その店主の行為は完全な「チクリ」である。


「それでだ、それを見たお爺ちゃん、しばらくはじっと考えるようにしていたらしいんだが、やおらその場で正座しなおして“息子をよろしくお願いいたします”とその店主に頭を下げたそうだ。」

「ええっ! ・・・。」

孝は絶句した。余りに予想外のことだったからだ。


「それなのに、そこまでしてくれたのに、お爺ちゃんはお父さんにその事実を告げなかったんだ。

つまりは、知らんぷリをしてくれてたんだ。」

「ど、どうして?」

「さあ、どうしてなのかなぁ~? お爺ちゃん、今でもそのことについては一言も言わないんだ。」

「・・・・・・。」


「今の役員会でのことも、そのバイトをやめることになったときにその店主さんから教えてもらっただけで・・・。

だから、お父さんも、お爺ちゃんに向かって、“あの時はどうして黙って見逃してくれたの?”とは聞けないんだ。聞いても恐らくは“そんなことは知らん!”と白を切るだろうって思うからな。」

「・・・・・・。」

孝は祖父の顔を思い浮かべながら聞いている。



(つづく)




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ