第2章 タカシの夢はお笑い芸人? (その20)
「いや、何も言われなかった。」
父親は大きく首を横に振る。
「ど、どうして?」
孝にはそれが不思議に思えた。
今も頑固一徹の言動を崩さない祖父の性格から考えれば、そうして父親が内緒でバイトをしていたことを知って、それでも何も言わなかったとは信じにくかった。
おまけに、そのバイトの目的が目的だ。ラジコン飛行機という言わば高価な玩具だ。
それを買うために内緒、つまりは嘘をついて金を稼いでいたのだ。
「人間、正直が一番」と孝にも何度も言い聞かせてきた祖父である。その姿からして、父親の行動を黙認するとは到底思えなかった。
「だから、お父さんは、お爺ちゃんにばれてないと信じていたんだ。」
父親は、そう言うことで孝の疑問に答えてくる。
「で、でも・・・、実際にはばれてたんでしょう?」
「ああ・・・。その点がやはり子供だったんだな。」
「ん? ど、どういうこと?」
「何といっても、そのバイト先が悪かった。」
「んん?」
「同じ町内にある新聞配達所だったからな。おまけに、そこの店主とお爺ちゃんが友達だったんだ。」
「ええっ! だ、だから、ばれたの?」
「もちろん、そんなこと、まったく知らなかったからなぁ。」
「・・・・・・。」
「そう言えば・・・と、後になって分かったんだ。」
「な、何が?」
「中学生がバイトをしたいと申し込んで来たんだ。当然のように履歴書は書かせるわな。
住所、氏名、年齢、通っている学校名、そしてバイトをする理由など・・・。」
「ああ・・・、なるほど・・・。」
孝はバイトの経験はなかったが、そうしたことを書かされるであろうことは理解していた。いずれもバイトの経験がある友達からの情報である。
「そのとき、お父さんの名前を見た店主が、まじまじとお父さんの顔とその書類を見比べたんだ。そう、まるで、お父さんの顔に穴が開くほどにな。」
「・・・・・・。」
「何か変な感じ・・・とは思ったんだが・・・。それでも、じゃあ、来週から来てくれるかと言われたものだから、お父さんも舞い上がってしまっててな・・・。」
「そ、それで?」
孝は、いつの間にか父親の話に入り込んでしまっていた。
(つづく)