第2章 タカシの夢はお笑い芸人? (その17)
「意外に思うだろ?」
父親が孝に訊いて来る。
「い、いゃあ、べ、別にそうとも思わないけれど・・・。」
孝は再び箸を動かし始めながらまずはそう応える。
父親がそんな話題を自ら口にする意図がよく分からなかったこともある。
当たり障りのない程度にとの防衛本能が機能した。
「お父さんが子供の頃、ラジコンってのが流行っててな。」
「ラジコン!? それ、聞いたことがある。レーシングカーとかでしょう?」
「ああ・・・、もちろん、そうした車もあったんだが、お父さんは飛行機が欲しかったんだ。」
「で、でも・・・、飛行機ってのは、コントロールするの難しいんでしょう? 友達が言ってた。」
「おっ! 友達にラジコンをやる子が居るのか?」
「中学のときだったけど・・・。」
「そ、そうか・・・。」
「・・・・・・。」
どうした訳か、父親はそこでふと会話を止めてしまう。
孝が横目で窺うと、父親は視線を漂わせるようにしていた。
(早く食い終わって2階へ戻るのが身のためかな?)
孝は父親の雰囲気をそう受け止める。
特段、叱責をしてくるような気配は感じないものの、このままここにいると、何かしら居心地が悪くなるような予感がしたからだ。
「でも、その難しいとされたラジコン飛行機を巧く飛ばせたときの喜びってのはなかったなぁ~。」
一呼吸置いてから、改めて父親がそう語り継いでくる。まるで、孝の気持ちを読みきったかのようにだ。
「へぇ~、巧く飛ばせたんだ・・・。そりゃあ、凄い・・・。
でも、それって、お父さんがいくつの頃?」
孝も思わずそう反応する。そこまで聞いて何も言わないのも変だろうと思った。
「中学のときだ。確か2年生の終わりだったと・・・。」
「ええっっ! そ、そんなに早くに?」
「3年生になる春休みになって、ようやっとだった・・・。」
「随分と練習した?」
「ああ・・・、宿題も忘れてな・・・。」
「お爺ちゃんに叱られなかった?」
「う~ん・・・、お爺ちゃんには内緒だったからなぁ~。」
父親は珍しく照れるような顔をした。
「で、でも、ラジコンの飛行機って高かったでしょう? よく買ってもらえたよね?」
孝はここぞとばかりにその点を突く。
祖父に内緒だったとすれば、恐らくは祖母に泣きついて手に入れたのだろうと予想できたからだ。
「い、いや、飛行機は自分の小遣いで買ったんだ。だからこそ、下手をしてどこかに墜落させればまた買わなきゃいけなくなるっていう怖さはあったんだろうな。それだけ、慎重になってた。」
「えっ! 小遣いを貯めたの?」
孝は予想外の言葉に愕然とする。
(つづく)