第2章 タカシの夢はお笑い芸人? (その16)
そんなことを考えつつも、孝の口は活発に動いていた。
そう、次から次へと皿の上の料理を口の中へと押し込んでいく。
で、茶碗のご飯がなくなった。
いつもであれば、「おかわり」と言ってその茶碗を差し出すだけで母親が動いてくれたが、今はそうもいかない。
母親は沙希を連れて別室に入っている。
自分で給仕をすべく椅子を引く。
そう、立ち上がって、台所の炊飯ジャーのところへ行こうとしたのだ。
ところが、ここで驚くようなことが起きた。
「入れてきてやるよ。」
そう言って孝の茶碗を持って行ったのは、何と父親だった。
「えっっっ! い、良いよ、自分でやるから・・・。」
孝は慌てて言う。
「座ってろ。」
父親の声は孝の動きを封じるほどに強かった。
「ほい、まだこれぐらいは食えるだろ?」
父親は、持って来た茶碗を孝の前に置くようにして言ってくる。
そして、徐に自分のいつもの席に腰を下ろした。
「あ、ありがとう・・・。」
孝はそれだけを言って、再び箸を動かし始める。
「どうだ?」
父親がそう口を開いてくる。
「ん? な、何が?」
「勉強のことだ。」
「う、うん、ぼちぼちかな・・・。」
孝は、少し言いよどむ。
「ぼちぼち・・・か・・・。ところで、大学はほぼ絞り込んだのか?」
「うっ、う~ん・・・、まだ、そこまでは・・・。」
「そうか・・・。ま、焦ることはないが、だからと言って、いつまでも目標が定まらないようでも駄目だろう?
そろそろ、いくつかに絞り込む必要があるんじゃないのか?」
「そ、そうだとは思ってるんだけど・・・。」
孝も、この部分については本音で答える。
「お父さんは、孝がどこの大学行くのでも構わないと思ってる。
家業を継いでくれとも言わない。
ただな、人生は長い。大学に入ることは、その1歩に過ぎないんだってことだけは忘れて欲しくないんだ。」
「そ、それは・・・、分かってる。」
「そ、そうか? だったら良いんだが・・・。」
「ん? ど、どうして、そんなことを?」
「お父さんは、自分が行きたかった大学に行けなかった。ま、いろいろな事情があってのことだったが・・・。」
「う、うん・・・。」
「だからでもないんだが、孝には、好きな大学に進んでほしいってずっと思ってきた。」
「う、うん・・・。」
「でもな、今になって思うのは、お父さんがそのことに拘り過ぎていたんじゃないかっていう反省なんだ。」
「えっ! 反省って?」
「お父さんは、航空工学の勉強をしてみたかったんだ。」
「ええっっっ! 航空工学って・・・、あの、飛行機なんかの?」
「ああ、そうだ。」
「へ、ヘぇ~・・・、そうだったんだ・・・。」
孝は初めて聞く話にふと箸が止まる。
(つづく)