第2章 タカシの夢はお笑い芸人? (その12)
「お兄ちゃんのケチ! 良いわよ! そのうちに、どこかで隠し撮ってやるから・・・。
ああっ、そうだ! 寝起きの顔も素敵かも・・・。」
沙希は、またまた口を尖がらせるようにして言ってくる。
どうしても、撮るつもりのようだ。
「お、おい! そ、そんなことをしてみろ。沙希の寝相を撮って、ネットに載せてやるからな。」
孝は抑止力のつもりでそう切り返す。
もちろん、冗談である。
「そ、そんな過激なことを言わないの。
でも、ほんと、1枚ぐらい良いんじゃないの?
お母さんだって、若い頃は、アイドル歌手の写真、そっと定期入れなんかに持ってたものなんだし・・・。」
兄妹の間に入るようにして、母親がそう言ってくる。
まるで、沙希の援護射撃をしているかのようだ。
「そ、そんなこと言ったって! それとこれとは次元が違うだろ?」
孝は、母親までがそう言ってくる意味が分からない。
確かに、今は、何でもかんでもが写真に撮れる。
そう、カメラなんて要らないのだ。携帯電話さえあれば、いつでもどこでも写真が撮れる。
クラスの男の子も、自分のお気に入りの女の子の写真を携帯に入れている。
「俺の彼女だ」と公言をする子もおれば、憧れている女の子を隠し撮りした写メを持っている子もいる。
もちろん、アイドルの写真を取り込んでいる子もいる。
言わば、それが普通らしいのだ。
だが、孝の携帯には、そうした写真は1枚も入っていなかった。
あるのは、ネットから取り込んだアニメのキャラクターだけである。
「タカシは、女の子に興味ないのか?」
よく言われる言葉だが、もちろんそんなつもりはさらさらない。
美人の子にはドキッとするし、可愛い子を見ればウットリもする。
出来れば、デートもしてみたいし、キスぐらいは・・・と思ったりもする。
だが、どうしてか、そこまで踏み込めないのだ。
やはり、「失敗が怖い」のかもしれない。
「だって、素敵なことでしょう? 誰かにふっとした淡い恋心を抱く女の子って・・・。
そうは思わない?」
母親はまだ拘ってくる。
「そ、そりゃあ、誰が誰を好きになろうと知ったことじゃないけれど・・・、少なくとも、俺を対象にする子なんていないだろ?
何か、別の目的があるんじゃない?」
孝は本音で言っている。
自分に恋心を抱くような子はいないだろうと思うからだ。
「ううん、それは違うわ。」
母親がそう切り返してくる。
友達に頼まれたという沙希が言うのならある程度は理屈が通るが、無関係な母親がそこまで言うのが理解できない孝である。
「孝はカッコ良いし、イケ面だし・・・、頭も良いし・・・。
それに・・・。」
「ん? それに?」
「何より、人に優しいし・・・。」
「妹には意地悪するけどね・・・。」
沙希が少し離れたところからそう口を挟んでくる。
「これっ! そんなところで、チャチャ入れないの。
ほんと、オテンバなんだから・・・。」
母親がその沙希を睨むように言う。
「そ、そんな煽てには乗らないよ。嫌だと言ったら嫌だし・・・。
だから、沙希、その女の子にはちゃんとそう言って断っておけよ。」
孝は、もうこれでその話は終わりにしたかった。
そんな気分でもない。
「だ、誰が、女の子だって言ったのよ。」
沙希が噛みついてくる。
「あん? だ、だって、沙希の友達なんだろ?」
「私の友達だって言っただけで、女の子とは言ってないわよ。
私にだって、ボーイフレンドはいるんですからねぇ~だ・・・。」
沙希は、平然とそう宣言するかのように言ってくる。
(つづく)