第2章 タカシの夢はお笑い芸人? (その7)
ところがだ。
その直後から、衝撃的なことが始まったのだった。
「高校生活も半分が過ぎ、いよいよ後半戦に入る。」
塾の先生からそうした説明があって、頻繁に豆テストをやらされることになった。
つまりは、高校1年生に習った部分を少しずつテストという形式を使って復習をさせようとするものだった。
いよいよ、大学受験に向けた臨戦態勢の始まりを予感させた。
ま、そうした豆テストは、孝としても「さあ、ドンと来い!」で望むところだったから、そのテスト自体には何ら問題は無かった。
わずか数問だけの豆テストである。用紙を配られてから、15分の制限時間が設けられた。
各科目の授業の最初の時間にやるのだと言われた。
つまりは、受けている全科目でそうした頭の訓練、徹底した復習を繰り返すことになるらしい。
そこでだ、先生が最後に言ったことが衝撃だった。
「そうした豆テストのすべてを先生が毎回採点はしてられんわな。
そこでだ、この豆テストに関しては、横の席の人間とプリントを交換して互いに採点してもらう。
自分でやってもらっても良いのだが、そうすると、中には誤魔化す奴がいるからな。
で、この教室の机は8列だから、この列とこの列で交換をしてもらう。
他の列も同じ要領だ。
交換したら、正解のプリントを配るから、それを元に採点をしてやって欲しい。
で、誰が採点したのかが分かるように、採点者の氏名も書いてもらう。」
「ええっっっ! そ、そんなぁ~・・・。」
生徒からはそんな声がどよめきのように上がったものの、先生はそうした反応が出ることも織り込み済みだったようで、そうした声を次の言葉で一蹴した。
「自分の実力を知ることも受験戦争に勝ち抜くためには必要なことだが、それと同時に、競争相手の実力を肌で感じることも重要になってくるんだ。
敵を知ってこそ、戦いに勝つことが出来るんだからな。
じゃあ、早速始めるぞ!」
テスト用紙が配られる。
一番前の席にその列の人数分のプリントが置かれるから、それを順に後ろの席へと送っていく。
「じゃあ始めて!」
先生がそう声を掛ける。
孝もそのテスト問題を目で追ってはいたが、どうしてか頭がボウっとしていた。
どうしてか。
それは、改めて隣の席の彼女を意識したからだ。
「隣の席の人と交換をして採点をする」ということは、当然のことながら彼女とテスト用紙を交換することになる。
と、言うことは、彼女が書いた文字を自分が見れるってことになる。
そこには、彼女の名前、フルネームが書かれている筈。
それを初めて知ることになるのだ。
孝は、まだ彼女のフルネームを知らなかった。
先生が、彼女に何かを答えさせる場合に「じゃあ、三浦」と呼んでいたから、苗字が「三浦」であるらしいことだけは知っていた。
それでも、そのファーストネームは知らなかったのだ。
(いかんいかん、こんなことを考えている場合じゃあない。)
孝は、頭を振るようにして、そうした邪念から逃れようとした。
まずは、このテスト問題に正解を書くことが先決だったからだ。
その豆テストの問題は、孝にとっては比較的容易なものだった。
だからなのだろう。制限時間を3分ほど残して全問の答えを書き入れられた。
で、ちらっと横の席の彼女の様子を見た。
やはり、気になったのだ。
ところが、彼女は、テスト問題を机の上に伏せて、目を閉じるようにして座っていた。
どうやら、孝と同じように、既に全問が解けたらしい。
で、今度は反対側の隣の席に視線をそっと移す。
そう、仲間のひとり竹田亮二の様子を見たのだ。
彼は、まだ手を盛んに動かしていた。
どうやら最後の問題と格闘しているようだった。
(つづく)