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第2章 タカシの夢はお笑い芸人? (その2)

「う~ん・・・、それはいかんなぁ~・・・。

大学への進学は、森本にとって人生を左右するほどの重要なことだが、それはご両親にとっても同じように重要なことなんだ。

その意味は分かるよな?」

鬼頭先生は、意識してなのだろう、いつもとは違ってゆっくりとした口調で言ってくる。


「・・・・・・。」

相変わらず、孝は黙ったままでいる。

それでも、鬼頭先生の視線には小さく頷いてみせる。


「森本が当初から言ってる国立大学に行きたいと思うのであれば、これから相当な努力をしないと行けなくなる。

今の勉強の仕方で本当に良いのかどうかも含めて、一度ご両親とじっくり話す必要があるだろう。

ま、もちろん、学校としても後日3者懇(3者懇願会)をやるんだが、その前にだ、やはり森本自身がどう考えるかが一番大切なんじゃないかと思う。」

「・・・・・・。」


「何も、大阪の国立大学だけが大学じゃあない。

選択肢を拡げることも考えられるだろうし、何より、どこの大学に行くにせよ、やはりちゃんとした目的意識を持つってことが重要だしな・・・。

その辺も含めてだ、今一度、足元を見つめなおしても良いんじゃないか。

先生は、そう思う。」

「・・・・・・。」


「ま、まあ・・・、良い。今日は、それだけだ。」

鬼頭先生、もうこれ以上、何を言っても孝が反応してこないと思ったのか、そう通告してくる。


「あ、はい・・・。じゃあ、失礼します。」

孝は椅子から立ち上がって、ペコリと頭を下げた。


「お、おい・・・。」

先生が呼び止める。


「はい?」

「これ、持って帰れよ。そして、ちゃんとご両親に報告をするんだぞ。」

先生は机の上に置いたままとなっていた書類を指差して言う。


「あ、はい・・・、そうします。」

孝は、半歩戻るようにしてその紙を手にした。

そして、それを四つ折りにして学生服のポケットに仕舞った。

そう、模擬テストの成績表をである。



孝の両親は、祖父の代からの果樹園をやっていた。

所謂「専業農家」である。

昔は、田んぼで米も作っていたらしいが、国が「減反政策」を推進し始めたのを機に、それまでは補助的にやっていた果樹園1本に転換したという。

それを決断した祖父は先見の明があったというべきなのだろう。

それ以降は、収入も比較的安定したものだったようだ。


そうした家に生まれた孝だったが、小さい頃から果樹園が嫌いだった。

何しろ、朝が早いのだ。

孝が起きる頃には、もう両親も祖父もその果樹園に出かけていた。

孝と妹である沙希の世話をしてくれたのは祖母だった。


おまけに、果樹園には休日がない。

そう、土曜日も日曜日もあったものではなかった。

普通の子供が言う「今度のお休みには・・・」という言葉がまったく通じなかったのだ。

だから、幼稚園でも、小学校でも、参観に来るのは祖母だけだった。

恥ずかしかった。


「どうして、うちは果樹園なんかしてるんだ・・・。どうして、お父さんは会社に勤めていないんだ・・・。」

何度も思ったことだった。


そうした背景もあったからだろう。

孝は、「大人になったら、会社勤めをするんだ」と密かに決心していた。

それでも、「どんな業種のどんな会社」というイメージは持っていなかった。

極端に言えば、「どこでも良い。普通のお父さんのように、背広を着て、ネクタイを締めて、そして自動車に乗って会社に向かうのであれば・・・」と思っていた。

そう、要するに、自分の両親の仕事を否定していたに過ぎないのだ。


もちろん、家業の果樹園をやるつもりはまったくなかった。



(つづく)





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