第2章 タカシの夢はお笑い芸人? (その1)
時は5年ほど遡る。
県立高校3年になっていた森本孝は、大学受験を目指して必死の思いで勉強をしていた。
目標は、大阪にある国立大学だった。
そうした中、高校3年になって初めての「センター模擬試験」の結果が出た。
で、クラス全員、順に進学指導部に呼び出されることになる。
「おいおい、森本、一体どうしたって言うんだ?」
担当の鬼頭先生が言う。
「はあ?」
孝はすっ呆ける。
確かに、今回の模擬試験は難解だったし、今一自信はなかったものの、それでもそこそこの点数は取れていると思っていたからだ。
「これを見てみろよ。」
鬼頭先生は、そう言って1枚の紙を机の上に叩きつけるようにして置いた。
それが、今回の模擬試験の孝の成績を数字で表したものだった。
過去にも何度か見たことのある書類だった。
「・・・・・・・・・。」
孝は、そこに書かれた数字を目で追っていく。
そう、科目別の点数が並んだ部分をだ。
「森本・・・、年々、成績が下がってないか?
とりわけ、2年の2学期以降の成績は信じられんほどだ。
何かあったのか?」
「い、いえ・・・、別に・・・。」
本当は、それは事実ではない。
「だ、だったら、どうしてこんな成績しか取れんのだ?
1年のときは、クラスでもトップを争う位置にいたのに・・・。
この調子じゃあ、とても国立は難しいぞ。私学を念頭に進学先を考え直せ。」
「・・・・・・。」
「おいっ! 分かっているのか?」
「あ、はい・・・。」
「それで?」
「それでって?」
「どうするつもりなんだと訊いてるんだ。」
「・・・・・・。」
「センター試験でこんなレベルじゃあ、とても国立大学なんて・・・。
そのことは分かってるんだろ?」
「あ、はい・・・。」
「じゃあ、どうするつもりなんだ? 自分のことだぞ。これで自分の将来が決まっていくんだぞ。本当に分かっているのか?」
「が、頑張ります・・・。」
「頑張りますってか・・・。ま、済んだことは仕方がない。
でもな、今回の結果は、今までで最低なものだ。
それは自覚できるだろ?」
「あ、はい・・・。」
孝は、見せられた点数表を睨み付けるようにして答える。
そこに並んだ成績は、自分でも信じられないほどに酷いものだった。
もう少しは点数を取れていると思っていたのだ。
「塾には今も通ってるんだよな?」
「あ、はい・・・。」
「そこでの成績はどうなんだ?」
「さ、下がってます。」
「や、やっぱりな・・・。で、そのことをご両親はご存知なのか?」
「た、多分・・・。」
「多分? それって、どういうことだ? 自分の口からは報告していないってことなのか?」
「・・・・・・。」
孝は、小さく頷く。
(つづく)