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第1章 爺さんの店は何屋さん? (その36)

「えっ! そ、その絵を展示すると?」

おっさん、その理由が分からない。

ひょっとするとその絵が目的なのかも知れんと悪い方に考えてしまう。


「はい・・・、で、私、その場で“喜んで・・・”と申し上げたんです。

お爺さんの絵がまた飾られるんだって思うと、それだけで嬉しくなってしまって・・・。」

豊子婆さん、その時の場面を思い出すのか、どことなくウットリとした顔で言う。


「そ、そうだったんですか・・・。」

おっさん、そうした豊子婆さんの顔を見ると、とても「本当に信用しても良いのでしょうか?」とは言えなかった。

それでも、昇平爺さんが残した絵に目を付けたところをみると、豊子婆さんが言うとおり、あの爺さん、絵が分かるのかも知れんと思ったりもする。


「まっこと、ありがたいお話ばかりで・・・。これで、お爺さんに叱られないで済むかもしれませんしね。」

「ん?」

「ワシが集めた絵を埃塗れにして・・・。天国で、お爺さん、そう文句を言っているように思えて仕方が無かったんですよ。」

「・・・・・・。」

「だからと言って、絵のことは何も分からない私では、もうどうすることも出来なかったですしね。

そこに、今回のようなお話を頂けて・・・。」

「じゃあ、売れたら、お売りになるおつもりで?」

おっさん、やはりそうした点が気になってくる。


「そ、そうですねぇ・・・。本当に絵のことが好きで、気に入って頂ける方がおられましたらそうしても良いかと・・・。

それだと、お爺さんも喜んでくれるんだろうって思いますしね。

でも、じゃあ幾らで売るのかって訊かれると困るんですが・・・。

私、絵の価値が分からないもので・・・。」

「う~ん・・・。」

「ですから、お訊きしたんです。角田さんって、絵のことがよくお分かりなんだろうって・・・。」

「あああ・・・、そ、そうだったんですか・・・。」

おっさん、先ほどそう訊かれたことを思い出す。


「ま、町村さんが保証人になられるようですから、そうした点も、一度町村さんにお訊きになられたら如何です?」

おっさん、もうこれ以上は自分としては何も言えないと思ったから、最後の逃げ手として町村氏の名前を挙げる。


「そ、そうですねぇ・・・。はい、ありがとうございます。そのように致します。」

豊子婆さんも、「それが妥当」と思ってくれたのか、そう答えて来る。


「じゃあ、また・・・。」

おっさん、そう言い残して店を出る。息が詰まる思いがした。



(あ、あの爺さんって・・・、一体、何者?)

小池のおっさんは、くらくらしそうな頭でそう考える。

ここからだと、小さな十字路の対角線上にその正栄ビルが見える。

爺さんの店は、相変わらずシャッターが半分程度開いた状態のままである。


あの爺さん、今までは大阪で同じような店をやっていたらしい。

会長の話だと、そこでは「とんでもないことが起きた」そうだ。

その詳細は分からないが、商店会の半分程度を回ってきたことで、確かに「何かが起き掛けている」という印象は強くなった。

そう、あちこちで、あの爺さんの話が出てきたのだ。


その大半はここ半月のことのようだが、中には3ヶ月も前の話もあった。

と、言うことは、もうその時期ぐらいから、あの爺さんはこの商店街に足を運んでいたことになる。

それは、どうしてなのか?

その時期から、既にこの商店街で店をやる計画があったのか?


そもそも、その店だって、茶店だと言う。

会長の言葉だと、「峠の茶店」らしい。

そう言われても、おっさんにはそれがどんな店なのかは想像も付かない。

「喫茶店?」と訊けば、「いや、違う」と言う。

おまけに、その茶店とは無関係なところにいろいろと話を持ちかけている。

今の画廊の話だってそうだ。


つまりは、「茶店」とは言いつつも、それだけに留まらない何かを考えているようだ。

(あの爺さん、一体何を考えてるんだ?)

おっさん、半分だけシャッターが上がった爺さんの店を睨むようにして立ち尽くすだけになる。



(第1章 完 ~ 第2章へつづく)




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