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第1章 爺さんの店は何屋さん? (その30)

「ま、また~・・・、そんな皮肉を・・・。」

おっさん、口を尖がらせるようにして言う。

ま、互いにそうした口が利けるのがこの商店会の良いところなんだが・・・。


「おう、だったら、俺のポケットに入れてくれ。」

米山は、両手が塞がっているからなのだろう、自分が着ている白衣のポケットを顎で指し示すようにして言ってくる。


「人使いの荒い奴だなぁ~。」

そうは言うものの、おっさん、取り出した例のポチ袋を米山のポケットに入れに行く。


「ちゃんと入れたからな。」

「ああ、入れてもらった。」

ふたりは笑いながら言い合う。


「小池さん、後で事務所寄っても良いかなぁ~?」

洗髪台に頭を伏せるようにしている管が言ってくる。


「ん? べ、別に、構わんが・・・。もう暫くは、事務所に戻れんぞ。

こいつ、まだ半分しか配って無いからな。」

おっさん、鞄を叩くようにしながら言う。


「何時頃だったら、戻ってる?」

「う~ん・・・、4時半ぐらいには戻りたいと思ってるんだが・・・。」

「じゃ、じゃあ、その頃に行くよ。」

「良いけど・・・。何の話だ?」

おっさん、そこまで言われると、その内容が気になってくる。


「い、いや・・・、たいした話じゃあないんだけど・・・。

ちょ、ちょっと相談に乗ってもらいたいことがあって・・・。」

「ん? そ、相談? 俺にか?」

おっさんは、一歩引く思いがする。


「う、うん・・・。」

管は、もうそれだけしか言わない。

ここでは、これ以上言えないという意味なのだろう。


「で、でも・・・、金と女の話は駄目だからな。」

「分かってる・・・。」

「わ、分かった・・・。じゃあな・・・。」

小池のおっさん、その言葉を区切りにして表へと出る。

最後の「じゃあな」はふたりに言った言葉である。


(この俺に相談ってか・・・。)

おっさん、その「相談」という言葉に弱いのだ。

何度も、それで痛い目にあっていた。

(ま、それでも、カンちゃんのことだしなぁ~・・・、そう無下には出来んだろう・・・。)

おっさんはそう思う。聞くだけは聞いてみようとだ。



で、また、その隣の店に入る。

喫茶店「マキ」である。横道との角店になる。


ドアを開けて入ると、「カランカラン」と軽い鐘の音がする。


「いらっしゃいませ、お好きなところへどうぞ。」

若いウエイトレスの子が言ってくる。


「ああ・・・、お客じゃあないんだ。マスターは?」

おっさんは、店内にその店主の宮路の姿がないから訊く。

いつもであれば、カウンターの向こう側に立っている。


「ああ、マスターですか? ちょ、ちょっと出てるんですが・・・。」

「ど、どこに?」

「う~ん・・・、でも、すぐに戻ると思います・・・。」

ウエイトレスは困ったように言う。

どうすれば良いのか分からないようだ。


おっさんも、この子を見るのは初めてだった。

今時、こうした店のウエイトレスと言えば、アルバイトの子に決まっている。

しかも、その出入りは激しい。すぐに辞めてしまうらしい。

で、また、次の子がバイトとして入ってくる。

その繰り返しなんだと聞く。

このウエイトレスもそうしたひとりなのだろう。


「じゃ、じゃあ・・・、また来るよ。商店会の小池が来たって言っておいてくれる?」

おっさん、ここはまた明日来ようと思う。

目の前のバイトの子に渡しても良いのだが、どうしてかちょっと不安だったからだ。

やはり、信用はしにくい。



(つづく)




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