表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/187

第1章 爺さんの店は何屋さん? (その27)

「ああ・・、そ・・・、そうなんです・・・。」

おっさん、その店の引越し蕎麦を配りに来たことを言いたかったのだが、何しろ、口の中には饅頭が入っている。


「でもさ、こんなこと言っちゃあ悪いけれど・・・、もうここら辺りで店出しても駄目よね?

一体、何を売るお店なのかは知らないけれど・・・。」

奥さん、自分はお茶だけを飲みながらそう言ってくる。


「う、う~んと・・・。」

おっさん、ようやく口の中の饅頭を飲み込んでから、改めて鞄を取り出す。


「じ、実は・・・、そのお店なんですが・・・。どうやら、来週から開店されるようで・・・。」

おっさん、例のポチ袋を取り出しながら言う。


「あら、そ、そうなの? で、でも、まだ工事も何も始まってないわよ。

来週からって、そんな急なことで、間に合うのかしら?」

奥さん、どうやらあの店に関心があるようだ。


「で、これを・・・。」

おっさんがポチ袋を差し出す。


「ん? こ、これは?」

「その、新規のお店のご挨拶だそうです。」

おっさん、自分が配っているのに、そう言って、如何にも第三者的な言い方に終始する。


「あらら・・・、引越し蕎麦なの?

まあ、長さんのところの券ね。あの人、上手くやったわね。」

奥さん、ポチ袋の中を取り出して目ざとく言う。


「で、でも・・・、今時、こんなことまでして・・・。

ん? 茶店? 茶店なの?」

奥さん、ようやく挨拶文を見たらしく、そう言ってくる。

忙しない人ではある。


「茶店って、要は喫茶店?」

「い、いえ・・・、それが、どうも喫茶店ではないようで・・・。」

ようやくおっさんが口を挟む。


「どうしてよ? どこが違うの? 要は、お茶を出して・・・。

んんん? 無料! 無料って、タダってこと?」

奥さんの思考回路は、どこか付いて行けないところがある。


「あ、はい・・・、どうやら、そのようで・・・。」

「う、嘘でしょう? オープン記念だからじゃあないの?

それ、どこかに書いてない?」

「い、いえ・・・、ずっとらしいです。」

「まさかぁ~、そんな訳無いでしょう?」

「・・・・・・。」

おっさん、言葉に困る。


事実、自分も「そんな馬鹿な!」と思っているのだ。だったら、どこで儲けるのだと。

それでも、この奥さんの前で「私もそう思います」とは言えないのだ。

やはり、会長と、それにあの町村氏の存在があったからだ。


「ねえねえ、これ、商店会全部に配ってるの? それとも、この近隣だけ?」

奥さん、またまた鋭いことを訊いてくる。


「一応、商店会全部にです。」

「うちと同じように、2枚ずつ?」

「あ、はい、どこも一緒です。」

「て、ことは、この引越し蕎麦だけで10万以上よね?」

さすがは商売人である。計算が速い。


「ま、そういうことにはなりますが・・・。」

「長さんのところが騙されたんじゃないの?」

「い、いえ、それはないと思いますよ。既に、代金は受け取ったって言ってましたから・・・。」

「あ、あら・・・、そうなの?」

奥さん、意外そうな顔をした。


「その店の店主って、若い人?」

奥さん、また新たな質問を繰り出してくる。


「い、いえ、どちらかと言えば、ご老人の部類で・・・。」

「ええっ! お爺ちゃんなの?」

奥さんも、どうしてか、腰を浮かさんばかりに驚いてみせる。



(つづく)




■読者の皆様へ


都合により、明日(30日)は更新が出来ません。

あらかじめ、よろしくお願いいたします。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ