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第1章 爺さんの店は何屋さん? (その24)

「よく助かってもんだ、運が良いって医者に言われたよ。

普通の人間だったら、もう駄目だったろうって・・・。」

兼田は苦笑するかのように言う。


「そ、そんなに悪かったのか?」

小池のおっさん、その詳しい病状は知らなかった。

兼田が倒れてから店に行ったこともあったが、ひとりで店を切り盛りしていた奥さんにそれを訊くことが出来なかった。


「ああ・・・、ここがな。」

兼田は、自分の左胸を指差して言う。

どうやら、心臓が悪かったらしい。


「ま、若いときからラグビーをしていたこともあって、身体には自信があったんだが・・・。

今回のことで、俺もおっさんになってたんだってよく分かったよ。

小池さんも健康にだけは注意しろよ。」

「ああ・・・、そ、そうだな・・・。」


「ところで、何を浮かない顔をしてたんだ?」

「い、いや・・、別に・・・。」

「そうか? だったら良いんだが・・・。」


「おおっ、そうだ!」

おっさん、ふと思いつく。


「ん?」

「後で店に行っても良いんだが、ここで会ったから、渡しておく。」

おっさん、そう言って、鞄から例のポチ袋を取り出す。


「な、何だ?」

「引越し蕎麦の代わりだそうだ。」

「ん? “がきだな”?

ああ・・・、あの正栄ビルに入ることになってる茶店か?」

兼田、ポチ袋の表を見てそう呟くように言う。


「えっ! し、知ってるのか?」

おっさん、その言葉に驚く。まだ、中身を見ていないのに、兼田がそう言ったからだ。


「ああ・・・、かみさんからその話は聞いている。」

「ん? 奥さんから?」

おっさん、ますます分からない。


「俺が倒れてから、店、かみさんひとりになってしまってたからな・・・。」

「ああ、そ、そうだったな・・・。」

おっさん、その時の状況を思い出す。奥さん、ひとりでバタバタしていた。


「そうした状況になって1週間ぐらいしたときだったかに、ひとりの爺さんが若い子を連れて店に来たらしい。」

「ん? 爺さん?」

おっさん、どうしてか、その言葉に角田の爺さんの顔を思い出す。


「ああ・・・、大阪から来たって言ってたらしい。名刺を貰ったそうだが、そこにあった名前がこの“がきだな”っていう茶店だったんだって・・・。」

「ええっっ! そ、それって・・・。」

おっさん、まるで狐につままれたような気分になる。


「で、連れてきてた若い子、森本君っていう22歳の子なんだが、その子を店で働かして欲しいと・・・。

かみさん、最初は断ったそうだ。人手は欲しいが、とても賃金を払う余裕はないってな・・・。」

「そ、そうだろうなぁ~・・・。」

「ところがだ、ここからがびっくりだ。」

「な、何がだ?」

おっさん、気が遠くなりそうだった。


「賃金は要らないって言うんだ。」

「えええっっっ! つ、つまりは、無給で構わないと?!」

「だろ? びっくりだよな。」

「ま、まさか・・・。」

「その、まさか、だったんだ。」

「ほ、本当に、本当なのか?」

「ああ・・・、その子、今でも手伝ってくれてる。だから、俺も、こうして夕方からだけ店に出れば良いんだ。ほんと、助かってるよ。」

「で、でも・・・。」

そこまで説明されても、おっさん、とても信じられない。

今時、無給で働いてくれる若者なんていやしない。

そんな馬鹿なと思うからだ。



(つづく)





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